私たち、政略結婚しています。

「うん。…分かった。行こう」

二人が身体の向きを変えて俺のいる方を向く。


「…あ…」

秋本が俺を見て歩を止める。


「伊藤さん」

俺を呼んだその声に反応して佐奈が顔を上げた。

「克哉」

悲しげに歪む泣き顔が、俺に向けられて思わず佐奈から目を逸らした。

これまでに彼女が流した涙は、全て自分のせいだと思っていた。

その瞳の奥には俺に対する愛が隠されているのだと思っていた。


「…よく…分かったよ。もう…受け入れざるを得ないな。こんなに見せ付けられちゃ、もう引き止められないな。
…浅尾屋のことは俺から父さんに頼んでみるわ。

だけど、お前…。よく、好きな奴がいるのに今まで俺と一緒にいられたな」


自分でも驚くほどに口からするすると言葉が出た。
しっかりと嫌味まで付け加えて。

怒りに震えそうになりながら、冷静に笑みを浮かべる自分が、まるで別の誰かにでもなったような気がした。


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