負け犬も歩けば愛をつかむ。
「体調が第一だ。帰ろう」



椎名さんはもう一度しゃがみ込み、力無く座り込んだままの私に優しく言葉を掛けた。


彼が言うことはもっともで、何も間違っていない。

迷惑を掛けたくなくて必死になっていたはずなのに、それが逆に問題を起こすことになりかねないのだと、どうして私は気付かなかったの? 考えればすぐにわかることなのに……。

もう自分が嫌。何をやっても空回りしている。



「立てるか? 送っていくよ」

「……大丈夫です、一人で帰れます」



手を貸してくれた彼を制し、テーブルに手をついてゆっくり立ち上がった。

やっぱり身体は重くて、少しふらふらするけど……ここで頼ったらまた迷惑になるもの。



「どこが大丈夫なんだ、遠慮するな」

「本当に平気ですから!」



ヤケになったように強い口調で言ってしまう、そんな意地っ張りな自分も嫌。

床に置いてあったバッグを掴むと、そそくさとドアの方へ向かう。また涙が零れてしまう前に。



「待って──」



腕を掴んで引き止められたものの、泣きそうな私の顔を見た椎名さんの手の力が一瞬緩んだ。

ダメだ、これじゃ平気だなんて言葉も嘘に思われるじゃない。

私は無理やり笑顔を作ると、さりげなく彼の手を離す。



「裏口とここの鍵はその棚の中にあるので。それだけお願いします。……すみません、お先に失礼します」



何か言いたそうにする彼を振り切り、それだけ早口で告げると逃げるように休憩室を後にした。

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