負け犬も歩けば愛をつかむ。
今更だというのに、九条さんは少し照れたように頬をうっすら桃色に染めると、わざとらしい咳払いをする。



「話が逸れましたけど、あの人があんなにひん曲がった性格になったのは、彼の叔父とのことが原因でもあるんですよ。だから、情状酌量してやってくださいね」

「叔父って、社長さんのこと?」

「えぇ。詳しくは椎名さんに聞いてください」



専務と社長の間に何があったというのだろう。

そしてそれを椎名さんが知っているということは、きっと九条さんが話したのね。後で聞いてみよう。

彼女は一歩足を踏み出すと、私を一瞥してこう言った。



「この私をフッたくらいですから、彼は手強いですよ。あなたに望みがあるとは思えませんけど、せいぜい頑張ってください」



かっ、可愛くない!

にこりと一瞬微笑んだ顔は相変わらず魅力的なのに、言うことが本当に可愛くない!

去っていく彼女を恨めしげに見送りつつ本来の目的を思い出し、早く遂げなければと再びドアに向き直った。

一応ノックをして、遠慮がちにドアを開ける。



「失礼します……」

「本当に失礼だよ、覗き見するなんて」

「す、すみません」



デスクに座って気怠げに片手で頬杖をつき、パソコンの画面を眺めながら言う専務のもとへおずおずと向かう。

そして、賞状を渡すように両手で請求書を差し出した。

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