負け犬も歩けば愛をつかむ。
カッチリと固まったまま説明を聞き、パソコンの画面を目に映していると、私を少し覗き込むようにして彼が問い掛ける。



「……どう、わかる?」



うひゃ! 近い近いぃ!!

耳の近くで魅惑の低音ボイスがこだまし、ぞくりとしながらもコクコクと頷く私。

椎名さんはそれからも同じ体勢で説明を続け、なんとか頭をフル回転させてやり方を理解したものの、身体は終始石像と化していた。


し、椎名さんって……突然接近してくるのよね、しかも無自覚で。

まったく下心は感じないからいやらしさは皆無なのだけど、こっちはドキドキさせられっぱなしよ!



……でも。こんなにドキドキしてしまうのは、単に外見がカッコイイからじゃない。

身のこなしとか、人の良さとか、視野の広い考え方とか……

彼の内面もすべて含めて、素敵な人だと思えるからだ。



「なんとか出来そう、です」

「君は覚えが早いね。えらいえらい」



あは、また子供扱い?

でもそんな褒め言葉をもらって、ふわりと微笑まれただけで、温かいココアを飲んだ時のようなほっこりした気分になる。


“気付いてないだけで、実はもう近くにあるかもしれない”


あぁそっか……椎名さんと話す時に感じる温かいモノ、これが私の小さな幸せなんだ。

思い出したよ。これは好意を抱く相手に対する、特別な感情。

きっと、恋の始まりの合図だ──。


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