負け犬も歩けば愛をつかむ。

「えーと、USBと発注のリストは渡したし……これでOKだな」



今日の用事が済み、椎名さんはぶつぶつ呟きながら最後の確認をしている。

帰っちゃう前に早く言わなきゃ、歓迎会のこと!

彼への恋心を自覚した直後でなんだか緊張するけど、平静に平静に……。



「あの、椎名さん」

「ん?」

「今度、ここの皆で歓迎会をやろうって話が出てるんですけど……よければ椎名さんも来てくれませんか?」



上目遣いで見上げると、彼は困ったような笑みを浮かべる。



「ありがとう。でも、嬉しいけど、俺がいたら皆気を遣うだろ?」

「いえ、そんなこと!」

「俺はいいから、皆で気兼ねなく楽しんできなよ」

「や……椎名さんがいなきゃダメなんです!!」



思わず告白みたいなセリフが口から飛び出して彼を引き留めてしまった私は、今この瞬間にはたと気付いた。

本当は自分が一番、椎名さんに来てもらいたかったんだということに。

目を丸くする彼に、私は慌てて言い直す。



「や、えぇと、椎名さんが来てくれると皆喜ぶので、ぜひ……!」



あんまりしつこく誘うと逆効果かな?と若干不安になっていると、椎名さんは柔らかな笑みをこぼす。



「そう? ちなみにいつ?」

「あ、まだ……週末にしようってことしか決まってないんです。椎名さんの都合に合わせようと思ってて」

「じゃあ、来週の金曜か土曜にしようか」



彼の言葉に、私は自然と笑顔が広がって、「はい!」と小学生並に元気な返事をしていた。


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