負け犬も歩けば愛をつかむ。
「あーそれ可愛い!」



ふいに真琴ちゃんが、横から私が手に持つバレッタを覗き込んで、黄色い声を上げた。

そしてそれを私の耳のあたりに付けると、鏡と私を交互に見てにっこり笑う。



「うん、似合ってる! 大人っぽいけど可愛くて、すごくいい感じ」

「ほんと~?」

「本当ですって!」



私も鏡を覗き込むと、たしかにこれだけで印象が変わって、なんだかワクワクした気分になってくる。

いろんな角度から見ていると、穏やかに微笑む真琴ちゃんが隣に映った。



「やっぱりいいですねー、恋って」

「な、なに突然」

「千鶴さん、最近仕事以外で何かに熱中したことあります?」



そう言われて考えを巡らせてみるけれど、夢中になれるような趣味もないし、これといって思い当たらず黙り込む。

真琴ちゃんはそれを見越していたようにクスッと笑った。



「千鶴さんのイメージは、あたしの中では“脱力系女子”って感じなんですよね。常にドライで、恋愛どころかオシャレにも興味なさそうだし、お休みの日も家でゴロゴロしてお酒飲んでるって言ってたし」

「……“オヤジ女子”と言わないでくれてありがとう」

「いーえ。でも好きな人ができた今の千鶴さんは、輝いててすっごく魅力的ですよ」


急にそんなことを言われるとなんか照れる……。

バレッタと同じ、淡い桃色にほんのり染まった頬を鏡に映しつつ、ポリポリと頭を掻いた。

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