負け犬も歩けば愛をつかむ。
すると、鏡に映るお店の木製のドアが開き、綺麗な長い髪の毛をなびかせた女性が入ってくるのが見える。

……九条さんだ。

メモ帳とペンを手に、食器類やキッチン用品が並ぶコーナーを物色している。

何か買うわけではなく、市場調査でもしているようだ。さすが、仕事熱心なんだなぁ。


私の視線の先にいる彼女に気付いたらしい真琴ちゃんは、口元を手で隠しながらこんなことを言う。



「今の千鶴さんは、九条さんにも負けてませんよ」

「それは言い過ぎ」



乗せ上手の真琴ちゃんに呆れて鼻で笑ってしまう。

そしてバレッタを外した私に、彼女はすかさず「それ買いますよね?」と確認してきた。

一瞬躊躇ったものの、じっと見つめる真琴ちゃんの眼力にも後押しされて、小さく頷く。



「……買います」

「よしっ! これで明日はちゃんとメイクしてオシャレして、女子力アップしてきてくださいね♪」



じゃれるように私の背後から両肩に手を置き、鏡越しにニッコリ笑う真琴ちゃんに、私は苦笑を返した。

メイクはなんとか頑張るとしても、オシャレな服なんて最近買ってないしなぁ。

帰ったらクローゼットを漁ってみるか……と考えながら、真琴ちゃんに引きずられるようにしてレジへと向かうのだった。


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