負け犬も歩けば愛をつかむ。
……マジですか?


瞬きを数回した後ゆっくり横を向くと、腕を組んだ彼は目を閉じていて、その言葉が本心なのか冗談なのかはわからなかった。

でも、狼になられるなら私は赤ずきんちゃんにでもなって、食べてもらっても構わないんだけどな……

と、エロメルヘンな妄想をしてしまう私はかなりイタいって。


とりあえず、カーステレオから流れてくるお気に入りの曲を口ずさんで、意識を逸らしつつ運転を続けた。



ナビが連れてきてくれたのは、レンガタイルの外壁がレトロな雰囲気を漂わせる、三階建てのマンションの前。

ひとまず駐車場手前の道路の脇に車を停め、椎名さんに声を掛ける。



「着きましたよー。ここでいいんですよね? ……椎名さん?」



あらら、やっぱり寝ちゃってる。

腕は軽く組まれ、右手にはスマホを持ったまま、私の方に頭を軽く傾けてすやすやと寝息を立てている彼。

ふふ、気持ち良さそう。

無防備で貴重な寝顔をお目にかかれたことに、ちょっぴり優越感を抱く。

でも、ずっと見ていたいくらいだけど、起こさないわけにはいかない。



「椎名さん、起きてくださーい。椎名さーん」



肩に手を置いてユサユサと軽く揺すり、彼の口から「ん……」と掠れた声が漏らされた、その時。

< 63 / 272 >

この作品をシェア

pagetop