負け犬も歩けば愛をつかむ。
突然豹変した専務に、徐々に眉間にシワが寄るのを自覚しつつ何も言えないでいると、彼は腕を組み一つ息を吐いてこう言った。



「菅原さんは大事な取引先の常務の令嬢なんですよ」



……げっ。あのコ、ただのお嬢様じゃなかったの!?

思わず目を丸くすると、専務は今まで見たことのない冷めた笑みを口元にだけ浮かべる。



「彼女から低俗な社員がいる等と知れ渡れば、この会社の印象までも悪くしかねない。万が一そうなった場合……彼に責任を取ってもらいましょうか」

「そんな……!」



責任って、そんなに事を大きくするようなこと!?

たしかに水野くんも悪かったけど、菅原さんに非がないとは言えないのに。

大事な取引先の娘だからって、こっちが全部の責任を負わなきゃいけないわけ……!?



「彼のような浅はかで愚かな人間は、これからも風紀を乱す事態を起こすでしょう。このメルベイユには相応しくない」



淡々と、どこか清々しささえ感じる涼しげな表情で言い放つ彼に、ふつふつと沸き上がっていたモノが確かな怒りに変わる。

もしかして、専務はただ水野くんのことが気に入らないから罰を与えさせようとしてるだけなんじゃないの?

そうだとしたら、私も黙っていられないわよ!



「ちょっと──!」

「申し訳ありません」



反論しようとした私を遮り、隣の椎名さんが再び頭を下げた。

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