負け犬も歩けば愛をつかむ。
「椎名さん……!」



こんな時にも謝り続けなきゃいけないの?

相手がお客様なら、やっぱりこっちが折れなきゃいけないの?

どうしても理不尽さに納得出来ず、けれど上司が頭を下げているこの状況で私が何かを言えるはずもなく、下唇をギュッと噛み締めた。



「社員の皆様に不快な思いをさせてしまったことは、本人も十分理解していますし反省もしています。今後はこのようなことがないよう努めます」



「……ですが」と、若干椎名さんの声色が変わったことに気付き、私は彼を見上げる。



「水野の人格まで否定するような発言は控えてくださいませんか」



その言葉に、専務がぴくりと反応したのがわかった。



「彼は私の大事な部下であり仲間。毎日懸命に仕事している姿も知っています。だからどうか、彼の外見だけで判断して、頭ごなしに潰すことはしないであげてほしいのです」



椎名さん……言い返した!

専務が相手でも、言うべき時は言うんだ。

盾突いたりしたら自分の首を絞めることになりかねないにも関わらず、椎名さんのようにきっぱり言ってくれる人は数少ないと思う。しかも、問題を起こした水野くんのために。

感動すら覚えながら、私は尊敬の念を込めて彼を見つめていた。

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