*花は彼に恋をする*【完】
「…黒瀬課長。」
私は自分だけが聞こえる声で
ポツリと呟いた。
…嘘だと思いたいけど嘘じゃない。
黒瀬課長が…女性と一緒にいる。
私の知らない女性と一緒に…。
2人とも私には気づいてはいない。
女性の明るく通る声が
「…翔英、出張帰りのところを
来てくれてありがとうね。」
と、嬉しそうに話していたのが
私の耳に入った。
…やっぱり間違いない。
男性は黒瀬課長である事が
この瞬間決定づけられた。
「……。」
私は立ち止まったまま
2人の会話を近くで聞くしかなかった。
…黒瀬課長。
帰ってたんですか…?
帰ってきてたんですか…?
その女性…誰なんですか?
声も出せず、立ち去るにも
体は固まってしまって動けない。
後ろから歩く人は
そんな私を邪魔そうに
通りすがりに睨みつけてきたり
時には怪訝な顔をしながら
避けて通り過ぎて行く。