雪恋ふ花 -Snow Drop-
「はい、どうぞ」
目の前に差し出されたホットケーキはきれいな円形だった。
「バターものせる?」
「うん」
「メープルシロップはこれね」
珠はてきぱきと用意されていく朝ごはんに首をかしげていた。
なんか、春さんのイメージがいつもと違うような気がする。
カフェオレも、ミルクパンで温めたミルクと混ぜる正統派の入れ方だった。
シュガーポットにはブラウンシュガーのおしゃれな角砂糖。
なんか、喫茶店みたい。
「冷めちゃうから、先に食べてて」
そう言って、春人は自分の分のホットケーキに取りかかる。
「春さんは、料理とかするんだ?」
「ああ、けっこう好きだよ。うまくはないんだけどね」
「休日の朝は、いつもホットケーキなの?」
すると春人が笑って言った。
「さすがに、一人の時はあんまり焼かないな。余っちゃうしね」
自分のために用意したとあんに言われているようで、珠はくすぐったい気持ちになる。
「そうだ、今日はどうする?」
まるで、昨日のことは何もなかったように、遊びに行く相談をする友達のような軽い口調で春人が聞いた。
「……」
珠が返事につまっていると、春人が振り向いて、優しいまなざしでつけ加えた。
「うちは、いつまでいてくれてもいいよ。家に帰りたくないなら」
「ほんとに、いいの?」
「どうぞ」
春人が焼きあがったホットケーキを手に、珠の向かいの席に座った。
春人のマグカップにはブラックコーヒーが入っていた。
わざわざ自分のためにカフェオレを入れてくれたことに気づくと、春人の優しさが身にしみる。
春人は朝食の間中、何も聞かなかった。
珠はまだ心の整理がついていなくて、今、話さなくて済むことにほっとしていた。