雪恋ふ花 -Snow Drop-

食事が終わると、春人が言った。

「良かったら、お風呂入る?」

「え……」

珠は一瞬、言われている意味がわからず固まってしまう。


「いや。昨日滑ったままで、気持ち悪いんじゃないかと思って。着るものなら、貸すよ?」

「えっと……」


春人は食器を洗いながら、さりげなくつけ加えた。

「湯上りだからって、おそったりしないから、安心して」

「そんなこと、心配してない」

「あっそ。それから、着替えも買っといた。さすがにコンビニで、ブラは買えなかったんだけども」


珠はそれ以上、恥ずかしい会話が続くことに耐え切れなくなって、春人の言葉をさえぎった。

「お風呂、借ります」

「どうぞ」


お風呂場もきれいに掃除されていた。
湯船をのぞいて、珠は絶句する。
淡いピンク色の泡が浮いていたからである。

軽く湯をかぶって、泡風呂の中に身を投じると、珠は思わず笑いがこみあげてきた。
まさか、毎日、春人は泡風呂なんだろうか?
それとも休日の朝の楽しみなんだろうか?

いい香りのボディシャンプーに、トリートメントまで置いてある。
そして、やっと気づいた。

どうして、春人は一人だなんて勘違いしたんだろう。
30歳なんだから、そういう相手がいてもちっともおかしくないのに。

これは彼女と迎える朝のごく普通の風景なのかもしれないと。

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