風の放浪者

(来るな)

 心の中でそう命令を下すも、気配は更に強くなっていく。

 力を使うと判断したユーリッドは、徐に声を荒げる。

 止めろ――その瞬間、何かが砕けるような音が響く。

 どうやら寸前で力を押さえ込んだようだが、突然の行動に異端審問官は動揺を隠し切れないでいた。

 ユーリッドの後姿を見詰めつつ彼等は流れ落ちる汗をそっと拭い、大きく息を吐き気分を落ち着かす。

 この者は一体。

 目の前にいる相手は、間違いなく排除すべき存在。

 自らの教えに反する異端者で、精霊を従える者。

 これらの要因を総合すれば、行う行為はひとつ。

 すぐに取り押さえ、一方的な判決を下す。

 それがわかっていても、身体が言うことを聞かない。

 何か、嫌なことが。

 中には不安感を抱く者もいたが、それを言葉として表すことはなかった。

 目的を果す――それが今、彼等ができる行為。

 だが、運命が彼等に味方することはなく、それどころか不幸が舞い降りる。
< 118 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop