風の放浪者
(来るな)
心の中でそう命令を下すも、気配は更に強くなっていく。
力を使うと判断したユーリッドは、徐に声を荒げる。
止めろ――その瞬間、何かが砕けるような音が響く。
どうやら寸前で力を押さえ込んだようだが、突然の行動に異端審問官は動揺を隠し切れないでいた。
ユーリッドの後姿を見詰めつつ彼等は流れ落ちる汗をそっと拭い、大きく息を吐き気分を落ち着かす。
この者は一体。
目の前にいる相手は、間違いなく排除すべき存在。
自らの教えに反する異端者で、精霊を従える者。
これらの要因を総合すれば、行う行為はひとつ。
すぐに取り押さえ、一方的な判決を下す。
それがわかっていても、身体が言うことを聞かない。
何か、嫌なことが。
中には不安感を抱く者もいたが、それを言葉として表すことはなかった。
目的を果す――それが今、彼等ができる行為。
だが、運命が彼等に味方することはなく、それどころか不幸が舞い降りる。