風の放浪者
つまり、自分達が作った枠から外れた者は異端に等しい。
しかし狭い枠に当て嵌まる人間は滅多におらず、エリザの行動は真に正しいもの。
エリックはそれを認めたからこそ、エリザを庇った。
「異端者の分際で、煩い」
気絶したエリザを軽々と担ぎ上げると、次はユーリッドとエリックを捕まえようとするが、異端審問官はエリックに近付くことを拒む。
どうやら、彼の歌声に恐怖を覚えているようだ。
だからといって、捕まえないわけにはいかない。
意を決した異端審問官はエリックに近付き両腕を掴み連れて行こうとするが、エリックの叫び声が響く。
流石に気絶させる歌を歌うだけあって、叫び声も凄かった。
高音の声は硝子を揺らし、それを粉砕する勢いがある。
このままでは周囲に多大なる被害が広がると判断したのか、異端審問官はエリックの頭を思いっきり叩き黙らせるが、このようなことで気絶する相手ではなかった。
叩かれた痛みに涙ぐむエリックは再び叫び声を上げようとするが、口の中に布を入れられ強制的に黙らせられてしまう。
唸り声を上げ、引き摺られていくエリック。
一人残ったユーリッドは異端審問官が行った光景に溜息を付いていたが、すぐに雰囲気を一変させる。
彼等の鋭い視線を感じたからだ。
「実に、手馴れているね。過去にも、同じことをしていたのかな? 血に濡れた者達よ――」
「答える必要はない」
「聖職者は、常に平等だと思っていた。それは違っていたのか、それとも僕の勘違いか……」
「お前達のような輩は別だ」
「なるほど。わかり易い」
このような状況に置かれていながら、不適な笑みを浮かべているユーリッドに異端審問官の顔が一斉に歪む。
ふてぶてしい態度に瞬時に「気に入らない相手」と判断したのか、相手は強気に出た。
異端審問官の一人がユーリッドに触れようと近付くも、寸前で動きが止まった。
彼が発した殺気に恐怖を覚え、そして氷のように冷たい眼光は同年代の人物が見せるものではない。
「触れるな。行けというのなら、ついていく」
伸ばされた手が瞬時に引かれ、誰も近付こうとはしない。恐ろしい――本能的にそのように感じ取ったのか、全員の顔色が悪い。
ユーリッドは素直に廊下に出て行くと、突然足を止めた。建物の周辺で、肌に突き刺さるような殺気を放つレスタの気配を感じ取ったのだ。