風の放浪者
「怒られますよ」
「そうだ。私には、レディーがいた。ああ、今何処で何をなさっているのか。一目でいい、お会いしたい」
エリックは胸元で手を組み、妄想の世界へ旅立つ。
これもまた相変わらずの姿でありエリザは妄想に浸っているエリックに対し溜息を漏らすと、窓の外に視線を向ける。
彼女の故郷のベルクレリアは例の事件意向別の道を辿り、修道院や礼拝堂は取り壊され温泉を主とした静かな街へ変化した。
本当に、それで良かったのか。
しかし精霊の怒りが落ちた場所を信仰の地として、残しておくわけにはいかない。
それにあのままにしておいたら、再び精霊の怒りが落ちてしまう。
その後エリザは聖女としての生活を送る為、精霊信仰の中心都市とされている場所に暮らしている。
聖都と呼ばれているこの土地は、ベルクレリアとは大きく異なっていた。
規模もそうであるが、何よりエリザの意見を素直に聞いてくれた。
それが驚きであり、同時に悔しいと気持ちでいっぱいになる。
皆、知っていた。
例の件を話した時、多くの者達は驚きもしていたが納得した表情も浮かべていた。
高位の聖職者は千年前の真実を知っており、知らないのは下の者と一般の信者達という最悪な状況に、エリザは顔を顰めた。
(……傲慢ね)
そのことを知った時、エリザはその言葉を思い付く。
同時に、正しい神話を書き記そうと強く決意した。
再び溜息を漏らしエリックを一瞥するも、暫くの間は妄想の世界から帰ってこないようだ。
苦笑した後エリザは静かに扉を開き私室から立ち去るが、先程の話により封じていた感情が溢れ出し胸元を握り締める。
それは幾重にも心を縛り、自分が何を想っているのか明確にする。
しかし――
自ら選択したというのに、このように後悔が生まれる時が多々ある。
聖女と呼ばれても人の子であり迷いは生じるが、言葉として表すことはない。
約束を破るわけにはいかないのだから。
◇◆◇◆◇◆
あてもなく、エリザは建物の中を彷徨い歩く。
広い敷地内に建設されたこの建物はエリザの為に用意された、いわば建物全体が彼女の私物。滅多に人が訪れることはなく、時折訪れるのは先程のような修道女。
寂しい――そう感じることも多く切ないが、刹那エリザの脚が止まった。