風の放浪者
エリックは気付かないフリをしていたが、内心は生きた心地がしなかったという。
彼を救ったのは学者という職業であり、精霊が嫌っている聖職者より正しい知識が豊富だったから。
「リゼル様を傷付けたというのに、それでも人々を思っていてくれた。とても、お優しい方……」
本当に人間が憎いと思っているのなら、力を振るい全ての人間を殲滅させることも可能であった。
しかしそれを行わなかったというのは、どこかに慈悲を与えようという心があったのだろう。
そのことに人間に転生したことが深く関わっていることは、二人は知らない。
「で、茶はないのかな?」
「残念ながら、お出しするようなお茶はございません。早くお帰りなることを願っております」
「聖女様のお言葉とは思えない」
「エリックさんには気を付けろと、言われておりますので。その言いつけは、守らないといけません」
満面の笑みを浮かべながらサラッと脅迫に近い言葉を発するエリザに、エリックは戦いてしまう。二年という歳月は、こうも人を成長させるものか。
いや、リゼルに出会ったことで彼女は強くなった。
それに逞しさを兼ね備えていなければ、多くの者達を導いてはいけない。
「ふう、いつになったら好いてくれるのかな」
「それは、エリックさんの態度次第だと思います。リゼル様も、そのように仰っておりました」
エリザは真面目に応えていくが、エリックは半分しか聞いていない。
そもそも彼等がエリックのことを好いてくれることは、絶対に有り得ない。
微かな希望というものがないわけではないが、期待しない方がいい。
また、史上最強の歌を歌い続ける時点で敵対関係となる。
「話は変わるけど、今でも好きなのかな?」
唐突な質問に、エリザの胸がチクっと痛み出す。
好きという感情は無いと言ったら嘘になってしまい、それは無理だと諦め切り捨てた想い。
それに、相手のことを好いてはいけない。
「そうだよな。うん、勿体無い。人間であったら、お友達でいたかった。彼とは、話が合う」
余程相手に好意を抱いていたのか、エリックは舌打ちしていた。
しかしその発言をよくよく聞いていくと、危険な部分が含まれていた。
彼の場合、男女問わず気に入った相手に好意を抱くらしい。
そして徹底的に付き纏い、相手の感情を考えないので勿論トラブルも多い。