風の放浪者
「そのような話は、いいです!」
「はははは、冗談だよ。わかっている。昼間のことだろ? だからそんな顔をしないで欲しいな」
刹那、彼は鋭い視線をユーリッドへ向ける。
この表情こそ“エリック”という人物を表現するのに、適切なものだろう。だとすると、今まで道化の仮面を付けていたということになる。
「あの言葉の意味は、ほんの一部の人間しか知らない。それを知っている貴方は、一体何者か」
「逆を返せば、君だってその言葉の意味を知っている。君こそ何者なのかな? ただの精霊使いには見えない」
「言わなくとも、貴方は僕の正体を知っている」
的を射た回答であったが、その表情は先程と変わっていない。
どうやらユーリッドの読みの通り、エリックはユーリッドの正体に気付いているようだ。
知っていながら今まで試すように会話をしていたというのならなかなかの人物であると同時に、策士だと彼を評する。
「隠し事も必要ないか。君は、学者なんだろ?」
「そのようなものです。正確に言えば、祖父がそうでした。専門分野は、ご想像通りですが」
「なるほど。でも、知識の多さは同じだ」
エリックは近くに置いてあった荷物の中からある物を取り出すと、それをユーリッドに投げ渡す。
視線で「中身を見ろ」と指示すると、自分は椅子に深く腰掛け相手からの反応を待つ。
それは、一冊の手帳であった。其処に何が書かれているのか期待を持ちつつ、頁を捲りだす。そして暫くの間、書き記されている内容を黙読していく。
その時、ユーリッドの眉が微かに反応を見せる。
しかしすぐに冷静な一面を取り戻すと、態と音をたて手帳を閉じた。
「なるほど……祖父と、同業者ということですか。やはり、予想は的中というところですね」
「いつからわかった?」
「吟遊詩人にしては、不可解な点が幾つもありました。妙に博識で、物事の本質を見抜いている。吟遊詩人には、そのような技術は必要ありません。それに、貴方は竜を三匹と言った」
ユーリッドの鋭い読みに、エリックは降参とばかりに大声で笑い出す。
自分の正体が判明したというのに最後の最後まで道化を演じるエリックという人物に、ユーリッドは呆れるかたちで溜息を付く。
また、道化を演じていると思われたがどうやら此方の面は本心だと気付く。