風の放浪者
「何故、職業を偽ったのですか?」
「学者には、住みにくい世の中だから。特に、神話関連の研究をしている者はね。わかるだろ? その結果が……」
『消されました』
二人の真剣な会話を遮るかのように、若い女の声が響き渡る。
一体誰の声なのだろうと不思議な表情を浮かべているエリックに対し、ユーリッドは相手に姿を現すように告げた。
声の主はフリムカーシであり、命令を受けていた調べ物が終了しユーリッドのもとへ報告に来た。
「事前に報告しろと……」
「申し訳ありません。このことは、すぐにお知らせした方がよろしいと思いまして……迂闊でした」
突如姿を現したフリムカーシに、エリックは口笛を鳴らす。
その美しく妖艶な姿に、一瞬にして虜になってしまったようだが、当のフリムカーシは全くに眼中にない。
どうやら「可愛い」という基準に、エリックは当て嵌まらないらしく、素っ気無い態度であしらっていく。
そのことを知らないエリックは、ユーリッドに何処の誰なのか必死の形相で質問をしていく。
鼻息は荒く、完全にのめり込んでいた。一方ユーリッドは冷ややかな視線を向けつつ、無言でフリムカーシの足元を指差す。
足下で揺れている三本の尾、それを見た瞬間ショックを受けたのか悲鳴を発した。
「に、人間じゃない」
「彼女は、精霊だからね」
その言葉に、エリックは項垂れていた顔を反射的に上げた。
どうやら“精霊”という単語に過剰に反応を示したらしく、面白い体質を発見したユーリッドはからかい半分でフリムカーシのことを話していく。
「おお! その名前は、秋を司る精霊じゃないか。何故、ユー君がそのような精霊を連れている」
「ユー君?」
馴れ馴れしく話しているエリックに、フリムカーシのオーラが殺気へと変化していった。
しかし、エリックはそのことに気付いていない。
それどころか更に“ユー君”と連呼し、ますますフリムカーシの機嫌が悪くなっていく。
そして身体が小刻みに震え、限界が近いようだ。
「やめておけ」
ユーリッドは、切れる寸前でフリムカーシを制する。
もし手加減なしで力を使用されたら、この一帯が一瞬にして消滅してしまう。そして街が存在していたと思われる場所に後に残されるのは刳り貫かれた穴。
勿論、人間は消し炭になってしまい存在そのものが消滅する。