風の放浪者
「面白いね。本当に」
「ご、御免なさい」
「いや、はじめからわかっていた」
その言葉は、エリザに言ったものではない。
目の前の人物――異端審問官に向けられたものだった。
その素早い登場に彼が予想していた通り、この行為ははじめから知られていた。
「異端者の癖に、頭はいいな」
「貴方達のように、凝り固まった思考は持っていませんので。人間、脳味噌に血液を回した方がいい」
「黙れ! 我等を冒涜する気か」
「その言葉、すぐに訂正しろ」
図星を付かれたことを隠す為か、異端審問官は更に口調を強めていく。
その感情的な態度に、ユーリッドは鼻で笑うと冷たい視線を向ける。
そして、穏やかな雰囲気を見せていたユーリッドとは思えない言葉を発した。
その瞬間、周囲にざわめきが走りエリザは目を丸くした。
「下等な生き物が」
ユーリッドの台詞は明らかに、相手を見下していた。
その言葉に、異端審問官の一人が完全に切れてしまう。精霊に仕える存在を貶す行為。
精霊信仰は精霊を敬うと同時に、その代弁者でもある聖職者も敬わなければいけなかった。
だが、ユーリッドはその代弁者を見下した。
異端行為――そう認識した瞬間、彼等がやることは決まっていた。
そもそも異端審問官という職業は、一般的に知られている教えに反した者達を捕まえ律する。
しかし、現実の意味は違う。
彼等は気に入らないと判断した者を捕まえ、罰を下す。
何より律すると罰の間には大きく差があり、完璧に欲望の捌け口となってしまっている。
その時、異端審問官の一人の手が伸びた。
そして指先がユーリッドに触れようとした寸前、何者かにその腕を掴まれてしまう。
『汚らわしい手で、主に触れるな』
異端審問官に向かって威しに似た声音を発したのはレスタで、無礼者の腕を掴んでいるのも彼であった。
すると次の瞬間、掴まれている部分が見る見る白く変化し凍りだしていく。
『そのような腕、なくなればいい』
姿を見せない相手に、腕を掴まれている異端審問官は恐怖で身体を震わせていた。
そして視界の先に見えるのは、徐々に凍り付いていく自身の腕。
その場合、力任せに腕を引き抜き開放するという方法も考えられたが、その衝撃で凍り付いた部分が砕ける可能性が高い。