風の放浪者
助けて欲しいと懇願するが、レスタが聞き入れることはない。
それどころか、更に力を加えていく。
刹那「ピシ」と音を鳴らし、腕の一部分に亀裂が入る。
それを見た異端審問官の男は、悲鳴を発した。
「やはり、自身の身が一番か」
ユーリッドの言葉に誘われるように、白い光の数を増えていく。
その光景に異端審問官達は戦き周囲に漂う光を懸命に振り払うが、白い光が消滅することはない。
これらに刻まれている恨みの根は予想以上に深いらしく、特に異端審問官の周囲に集まる白い光の数が多い。
様々な年代の声が響く。
苦しい。
憎い。
殺してやる。
複数の感情が混じり合い、呪歌のように囁く。
相手を殺したい、裁きを下したい。囁きは一点に集中するが、行動に至ることはない。
近くに、レスタの存在を感じ取っていたからだ。
「お前達が着ている服の色……それこそ、罪の象徴。赤は多くの嘆きを含み、お前達に降り注ぐ」
その言葉と同時に、何かが砕ける音がした。
それは、レスタが凍り付かせていた異端審問官の腕を砕いていたのだ。
血は、一滴も流れていない。
肘から下を失い、砕かれた者はふらふらと後ろに後退していく。
あまりにも惨い光景にエリザが悲鳴を上げ目を逸らし現実を受け入れないようにするも、ユーリッドに肩を掴まれ無理矢理現実に引き戻されてしまう。
「何も知らないということが、幸せとは限らない。エリザ、現実から目を背けてはいけない」
ユーリッドは、不敵な笑みを浮かべていた。
その表情にエリザは心臓が激しく鼓動し、息が荒くなっていく。怖い――身体は、それしか感じられないでいた。
その時、何かに合図を送るかのようにユーリッドは口笛を鳴らす。
次の瞬間、一陣の風と共に大きな生き物が修道院の屋根の上に現れた。
その生き物は、三本の尾と黄金の毛並みを持った巨大な狐。
それはフリムカーシの本来の姿であり、彼女は軽々とした動きで屋根の上を跳躍していくと地上に向かい下りていく。
そしてユーリッドの前に立つと、深々と頭を垂れた。
そして異端審問官には、威嚇の声を発する。
姿を現したフリムカーシに、異端審問官は何やら会話をはじめる。
どうやら彼女の存在を理解したのか、明らかに動揺していた。
だが、それに似合った態度を見せるということはない。
どうやら相手が精霊とまでは認識しているが、それ以上の知識は持ち合わせていないらしい。