風の放浪者

「彼等は、異端審問官に殺害された。そう、真実を隠す為に。本当は、知りたくはなかっただろう?」

 エリザは、真に確信する。

 目の前に立っているユーリッドと呼ばれている人物が、白き竜――リゼルというのは間違いない。

 刹那、緊張が最高潮に達してしまったのか、エリザは意識を手放してしまう。

 そのまま倒れ込むところであったが、寸前でフリムカーシに救われた。

「触れるのも、汚らわしいのではなかったのか?」

「見込みがあると、判断しました」

「主や我等を目の前にして、あそこまで意識を保っていた人間というのは珍しいことですから」

「そうだな」

 微かに囁くとユーリッドは地面に落とした服を拾うと素早く着込み、ポケットから長い布状の紐を取り出す。

 手馴れた手付きで解けた髪を後方でひとつに纏めていくと、レスタとフリムカーシにある場所に向かうことを告げる。

 それは学者達の解放を行う為であり、嘆きの原因を律する。


◇◆◇◆◇◆


 闇の中に怒号が飛び交う。

 それは異端審問官に向けられたものであり、怒鳴っている者はエリザが尊敬している司教ドロイト。

 審問官に向けている表情は聖職者とは思えない形相で、怒りに満ちていた。

「も、申し訳ありません」

 何度となく繰り返されている同じ言葉に、ドロイトは溜息を付く。

 そして、その人物を早く捕まえるよう命令を下した。司教の言葉に審問官は互いの顔を見合わせると「やりずらい」というような態度を示す。

 それに対しドロイトは訳を尋ねるが、誰も答えようとはしない。

「ハッキリと言え」

「そ、それが……精霊がいました」

「精霊だと? この神聖な地に、精霊がいてもおかしくはないだろう。何を恐れるというのだ」

「い、いえ。問題は、その方なのです。フリム――そう呼ばれておりました。まさか、秋を司る精霊ではないでしょうか」

 彼等の発言に、ドロイトの眉が微かに動く。

 精霊の中で「フリム」と訳せる精霊は、フリムカーシしか存在しない。

 もし、それが事実としたら……それを審問官は恐れていた。

 しかしドロイトは冷静な態度を取りつつ、彼等が考えていることは有り得ないと力説していく。
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