風の放浪者
「……愚か者が」
レスタは素早くユーリッドの前に立ち塞がると、片手を胸元から半円を描くように動かす。
刹那、レスタを中心に冷たい風が吹き荒れる。
唐突なことにエリザは両腕で顔を覆うと、必死に耐えていく。
「何があの方の為だ。自らも罪を犯そうとは……」
堅い物が、地面に落ちた。それは先程の光の塊で、凍て付き動きを失ってしまったようだ。人間の魂を凍り付かせてしまう、レスタの力。それを見ていたフリムカーシはクスっと笑い、それを楽しむ。
「怒りのあまり、重要なことを忘れたのでしょう」
袖口で口許を隠し冷ややかな視線を向けるフリムカーシはその場にしゃがみ込むと、細い指先で凍り付いた魂を軽く弾く。
すると魂はコロコロと転がっていき、近くに落ちていた仲間の魂に激突すると互いを弾き返し、そのままコロコロと面白いように転がっていった。
恐ろしい光景に、エリザは何も言えず見詰めるしかなかった。
精霊の真の姿は恐怖であり、彼等は決して優しくはない。
ただ優しいと思い込んでいただけで、事実は神話の如く悲惨なもの。
『お怒りになられた』
『何故だ……我等は、罪人を裁くのだ』
『精霊使い。そうだ、精霊使いだ』
周囲がざわめく。精霊使いは精霊を従える者であると同時に、罪深き存在。
その力は、リゼルの力そのもの。
本来、人は精霊を従えることなど不可能であったが、千年前の事件により人は従える力を得た。
よって精霊使いは原罪の象徴であり、聖職者は彼等を忌み嫌った。
その馬鹿馬鹿しいやり取りに、レスタは鼻で笑っている。
一方フリムカーシもつまらないやり取りに態とらしく欠伸をしていたが、エリザは一人だけ真剣な面持ちを浮かべていた。
歯向かう存在はノーマ。そして、白き竜。
そのことを知っているエリザは「何と愚かな」という気持ちから真実を伝えようとするも、フリムカーシの睨みで沈黙する。
そして俯き、静かに周囲の出来事を見守るしかできなかった。
『精霊使いは、我々の敵』
『その力、あの方に返さねば……』
「精霊使い」という部分だけ強調し、本質に気付いていない者達。
無知はその者の行動を増徴させていくと同時に、悲劇を招く要因となることを誰も知らない。
すると、今まで黙っていたユーリッドが口を開く。
その声音は相手を諌めるものではなく、忠告に近かった。