風の放浪者
「真実を追究するあまり、時には盲目になってしまう。それでは、彼等と一緒だと言っていい」
ふと、ローブを纏った老人がユーリッドの目の前に姿を現した。
ローブのデザインからして、かなり昔に亡くなった者か。
老人は恭しく頭を垂れると、真っ直ぐな瞳でユーリッドを凝視する。
『もしかして、貴方様は……』
老人の言葉は、ユーリッドの真の姿を示していたが「攻撃を仕掛けた」という事実をレスタとフリムカーシは許していない。
素早い動きで攻撃態勢を取ると、魂そのものを消滅させる気でいた。
「止めろ。そこまでしなくていい」
「しかし……」
「構わない。間違いは、あるものだ」
流石にユーリッドのそのように言われては、二人は従うしかない。
四季を司る精霊の力は、自然のバランスを崩す。
もし二人が感情のままに力を使うようなことがあれば、千年前の再現をしてしまう。
『お許しください』
「謝らなくていい。正直、人間という存在はわからない。お前達のような人間がいれば、それを否定する人間もいる。人間に転生した後多くの者達を見てきたが、やはり理解できない」
何故、人間に転生することを選んだのか――それは己の身体を傷つけられようとも、人間を信じてみようと思ったからだ。
だが、結果は最悪なもの。落胆――いや、裏切られたというべきか。
しかし、彼等は違った。
『この日が訪れようとは……スルド様』
「その名で、呼ばなくてよい。スルド・ベルシース――その意味は、理解している。故に隠すことはない」
ユーリッドの言葉に、老人は安堵の表情を浮かべた。
スルド・ベルシースとは、リゼルに対しての贖罪の言葉。
人間が行った罪を口に出せば、異端審問官の手によって裁かれる。
だから学者達は古代語を使い、自分達の罪を懺悔した。
スルド様――学者達はリゼルをそのように呼び、その行いを記憶に焼き付けた。
だからこそ千年の年月が経過しようとも、真実は失われない。
『我等が犯した罪、甘んじて罰を受けましょう』
老人の言葉重なり、衣擦れの音が聞こえる。
レスタが微かに動き、力を使おうとしていたのだ。
ユーリッドはそれを視線で静止すると、頭を振る。
甘んじて罰を受ける――それは、何を意味するのか。
自分達の魂を消滅させていいのか、それとも人間そのものに罰を下せというのか。
もしこの場で精霊達が彼等の言葉を受け入れた場合、世界は一瞬にして滅ぶ。