小咄
「……男の家に泊まって、何もないと思うのか?」

 どさ、と深成の横に座り直し、真砂は深成を見た。
 深成は、じ、と真砂を見る。
 ぴか、と稲妻が光り、びくん、と深成の身体が震えた。

 真砂は黙ったまま、少し上体を倒すように、深成に顔を近付ける。
 目を見開いている深成と、鼻先が触れそうになったとき、いきなり大きな雷鳴が響いた。

「んにゃあっ!」

 叫び様、深成は真砂に抱き付いた。
 甘やかな雰囲気などない。
 心底恐怖に震えた子犬さながら、真砂の胸にへばりついて、ぶるぶると震えている。

 しばらくしてから、真砂は思い切り大きくため息をついた。

「……寝るぞ」

 深成を引き剥がして立ち上がろうとするが、深成は真砂のTシャツをがっちりと握って離さない。

「やだっ!! 一人にしないでよぅっ」

「とはいっても、お前にその気がないのだろ」

「その気って何さーっ」

 必死の形相で縋り付く深成に、真砂は微妙な表情になった。
 可愛いのだが、どうもこの状態の深成に欲情するか、と言われると微妙だ。
 さほど自分が固いとも思わないが、こいつ相手だと本当に何もしないで一晩過ごすことも可能だな、と思い、実際そういうことがあったことを思い出す。

「わかったわかった。でもとりあえず、俺は眠い。寝たいが、ベッドは当然一つだ。俺は男で、お前は一応女だろ。どうする?」

 投げやりに、だが具体的に言ってみる。
 が、残念ながら、深成は別のところに反応した。

「一応って何さーっ! わらわ、ちゃんと女の子だもんっ」

 真砂の眉間の皺が深くなる。

「それで? お前はどこで寝る気なんだ」

「そ、そりゃお邪魔しちゃってるんだから、このソファでもいいんだけど。んでも、今は雷が鳴ってるし、そもそも一人で寝るんだったら、課長のお家に来た意味ないじゃん」

「その通り。普通は、男の家に泊まるっつーことは、一緒に寝ること前提だ」

「良かったぁ」

 途端に、ぱ、と深成の顔が輝く。
 話が通じているようにみえて、真砂の言っている意味は、全く通じていない。

 あくまで雷が怖いから、一緒に寝て欲しいだけだ。
 何歳だよっ! と心の中で怒鳴りつつ、真砂は大あくびをした。

「お前はほんとに無防備だ。そんな簡単に、男に引っ付くんじゃねぇよ」

 ぶつぶつ言いながら、寝室に向かう。
 その後ろを、真砂のTシャツを握ったまま、深成がついてくる。
< 133 / 497 >

この作品をシェア

pagetop