小咄
「んしょっと。よし、完璧」

 シャワーの後で、風呂場に洗濯物を干し終えた深成が、満足そうに手を叩いた。
 自分のパンツは、小物たちの奥に干してある。

---そんなどっちゃりなかったな。五日分ぐらい? トランクスが五枚ってことは、やっぱ五日分か。結構ちゃんとお洗濯してるんだね---

 あきなら真砂のトランクスに触れた途端に鼻血を噴きそうだが、深成からすると、靴下やハンカチと変わらない。
 気にすることなく全て干し、いそいそとリビングに戻った。

 真砂はPCを開いていた。
 深成のやり残した書類を作っているようだ。

「あ。わらわ、やろうか」

 てて、と真砂の側に寄り、PCを覗き込む。

「時間外だろ。お子様はもう寝ろ」

 鬱陶しそうに、ぐい、と深成の頭を押し退ける。
 ぷぅ、と頬を膨らませ、深成は真砂の横に、ぺたりと座った。

「雷鳴ってるのに、一人で寝られるわけないでしょっ」

「お前、普段は一人なんだろうが」

「わらわのお家には、うさちゃんとかくまさんとかいるもん」

「……ぬいぐるみか」

「ぬいぐるみだって、いるのといないのとでは、大違いなんだからっ」

 そのとき、少し大きくなった雷鳴が響いた。
 深成がソファの上で飛び上がる。

「おっと。さっさとしないと、またデータが飛んだら痛いな」

 真砂はPCに向き直り、かたかたとキーボードを打っていく。
 深成は不安げにきょろきょろしていたが、やがて真砂のすぐ横で、膝を抱えて小さくなった。

 しばらく集中してキーボードを打っていた真砂は、ふと左腕に重みを感じた。
 ちらりと視線を落とすと、深成が真砂にもたれている。
 寝たのか、と思ったが、腕に僅かに震えを感じた。

「……お前な……。そんなんで、よく一人で生活出来てるな」

 深成は俯いて小さくなったまま、真砂に引っ付いている。
 ずっとふるふると震えているのだ。
 真砂は出来た資料をセーブすると、PCを落とした。

「さて、寝るか」

 立ち上がろうとすると、慌てた様子で深成が顔を上げた。
 また涙目。
 真砂は額に手を当てて、渋い顔をした。

「あのなぁ。お前、今の状況がわかっているのか?」

「か、課長がわらわを置いて、寝ようとしてるっ」

「そうでなくて。お前、俺が男だってこと、わかってるか?」

「なな、何わかんないこと言ってんの。わらわ、そこまで馬鹿じゃないし」

 素直に言葉通りにしか取らない深成は、それどころではないのだろう。
 今にもこぼれそうなほど目に涙を溜め、必死で真砂を見上げている。
 置いて行かれるのが恐ろしいのだろうが、そういう態度は状況的に、非常に危険なのだが。

 真砂は渋い顔のまま、息をついた。
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