小咄
そして車はシェアハウスへ。
「さ、とりあえず六郎兄ちゃん、ソファで休んでて」
深成に促され、六郎はソファに座った。
真砂は深成が買ったスーパーの袋を持って、キッチンへ。
真砂にその気があったのかどうか、さりげなく荷物を持っている辺りに、六郎は相変わらず落ち着かない。
---い、いやいや。この前だって、奴は深成ちゃんに対して全く優しくなかったし、荷物を持つなんて考え、ないに決まっている!---
いかにも優しそうな捨吉ならともかく、その真逆に位置するといっても過言でない真砂が、人の荷物を持つことなどあり得ない、と結論付け、六郎は、ふぅ、とソファに身体を預けた。
何かいろいろ気にし過ぎて、返って疲れたようだ。
「六郎兄ちゃん。ご飯が出来るまで、休んでおいてね」
キッチンから深成の声が聞こえる。
何となく、新婚夫婦のようだな、と、ちょっとした空想に浸りつつ、六郎は少し幸せな気持ちになった。
例えば、仕事を終えて帰ってきたら、こんな風に深成がご飯を作ってくれる。
手伝おうとしても、深成はいいよいいよと笑いながら、楽しそうに料理をするのだ。
今は六郎はソファにもたれかかって目を閉じているので、音声のみで都合のいい夢を見られるのだ。
幸い真砂は、帰ってきてから喋っていない。
が、当然真砂も、一言も喋らないわけではない。
「阿呆か。いきなり肉を全部入れるな」
六郎の甘い空想は、不意に聞こえた低い声にぶち壊された。
しかも、いきなり可愛い深成に向かって『阿呆』である。
ぱっちりと、六郎の目が開いた。
「え~、だって折角買ってきたのに」
「人数を考えろ。それだと一人1kg食うことになるんだぞ。そんなに食えるのなんて、貴様ぐらいだ」
「わらわだって、いくら何でもそんなに食べられないよっ」
「どうかな。その気になれば、食えるんじゃないのか。前のから揚げだって、一番食ってたしな」
「だって、すっごく美味しかったんだもん。真砂のお料理って、何であんなに美味しいの。あんちゃんも真砂の料理が一番美味しいって言ってるよ?」
「お前らが下手なんだ」
「下手じゃないもんっ。真砂、わらわの卵焼きは食べるじゃん」
真砂が黙る。
い~っと顔を突き出しながらも、深成は真砂の横に、野菜を用意していく。
やっぱり深成は、真砂を手伝う。
そして真砂も、それを嫌がらない。
千代の言っていた、フライパンで叩かれそうになるとか、包丁が飛んできそうなどという物騒な空気はないのだ。
---いやいや、きっとそれは奴がどうこうではなく、深成ちゃんの手際がいいからだ。他の人よりも、邪魔にならないのだろう。すばしっこくて、小さいし---
無理やりそれっぽい理由をつけても、気になりだしたら呑気に寝ていられない。
六郎はソファに預けていた上体を起こすと、キッチンのほうへ顔を向けた。
その六郎の目に飛び込んできた光景は---。
「真砂っ。味見味見」
嬉しそうに真砂の腕に取り付く深成の姿。
そして、冷たい視線で馬鹿にしたように見つつも、お玉に掬ったシチューを深成の顔の前に持っていく真砂。
深成は頬を膨らませ、お玉にふぅふぅ息を吹きかける。
「さ、とりあえず六郎兄ちゃん、ソファで休んでて」
深成に促され、六郎はソファに座った。
真砂は深成が買ったスーパーの袋を持って、キッチンへ。
真砂にその気があったのかどうか、さりげなく荷物を持っている辺りに、六郎は相変わらず落ち着かない。
---い、いやいや。この前だって、奴は深成ちゃんに対して全く優しくなかったし、荷物を持つなんて考え、ないに決まっている!---
いかにも優しそうな捨吉ならともかく、その真逆に位置するといっても過言でない真砂が、人の荷物を持つことなどあり得ない、と結論付け、六郎は、ふぅ、とソファに身体を預けた。
何かいろいろ気にし過ぎて、返って疲れたようだ。
「六郎兄ちゃん。ご飯が出来るまで、休んでおいてね」
キッチンから深成の声が聞こえる。
何となく、新婚夫婦のようだな、と、ちょっとした空想に浸りつつ、六郎は少し幸せな気持ちになった。
例えば、仕事を終えて帰ってきたら、こんな風に深成がご飯を作ってくれる。
手伝おうとしても、深成はいいよいいよと笑いながら、楽しそうに料理をするのだ。
今は六郎はソファにもたれかかって目を閉じているので、音声のみで都合のいい夢を見られるのだ。
幸い真砂は、帰ってきてから喋っていない。
が、当然真砂も、一言も喋らないわけではない。
「阿呆か。いきなり肉を全部入れるな」
六郎の甘い空想は、不意に聞こえた低い声にぶち壊された。
しかも、いきなり可愛い深成に向かって『阿呆』である。
ぱっちりと、六郎の目が開いた。
「え~、だって折角買ってきたのに」
「人数を考えろ。それだと一人1kg食うことになるんだぞ。そんなに食えるのなんて、貴様ぐらいだ」
「わらわだって、いくら何でもそんなに食べられないよっ」
「どうかな。その気になれば、食えるんじゃないのか。前のから揚げだって、一番食ってたしな」
「だって、すっごく美味しかったんだもん。真砂のお料理って、何であんなに美味しいの。あんちゃんも真砂の料理が一番美味しいって言ってるよ?」
「お前らが下手なんだ」
「下手じゃないもんっ。真砂、わらわの卵焼きは食べるじゃん」
真砂が黙る。
い~っと顔を突き出しながらも、深成は真砂の横に、野菜を用意していく。
やっぱり深成は、真砂を手伝う。
そして真砂も、それを嫌がらない。
千代の言っていた、フライパンで叩かれそうになるとか、包丁が飛んできそうなどという物騒な空気はないのだ。
---いやいや、きっとそれは奴がどうこうではなく、深成ちゃんの手際がいいからだ。他の人よりも、邪魔にならないのだろう。すばしっこくて、小さいし---
無理やりそれっぽい理由をつけても、気になりだしたら呑気に寝ていられない。
六郎はソファに預けていた上体を起こすと、キッチンのほうへ顔を向けた。
その六郎の目に飛び込んできた光景は---。
「真砂っ。味見味見」
嬉しそうに真砂の腕に取り付く深成の姿。
そして、冷たい視線で馬鹿にしたように見つつも、お玉に掬ったシチューを深成の顔の前に持っていく真砂。
深成は頬を膨らませ、お玉にふぅふぅ息を吹きかける。