小咄
「……兄ちゃん、六郎兄ちゃん」

 まどろみから、深成の声が六郎を覚醒させつつある。
 だが薬の影響か、なかなかはっきりと目が開かない。

「何で起こすんだよ。そのまま寝かしときゃいいだろ」

「だって、ここじゃお布団もないし。風邪引いてんのに、可哀想じゃん」

 ぼんやりとした頭に、真砂と深成の会話が聞こえる。
 そしてすぐに、ゆすゆすと軽く身体を揺すられた。
 ゆっくりと目を開くと、深成が覗き込んでいる。

「あ、起きた? 今日はもう寝ちゃうでしょ? でもここじゃますます悪くなっちゃうから、ささ、ベッドに移動して」

「あ、うん……」

 のろのろと起き上がると、いつの間にやら真砂も風呂に入ったらしい。
 時計を見ると、すでに食事から三時間ほど経っている。

「じゃあ六郎兄ちゃん、どうぞ」

 深成が言いながら、自分の部屋のドアを開ける。
 え、と六郎が固まった。

「え、い、いや。いやいや、いくら何でも、一緒に寝るのは……」

 前はこの三人で一緒に寝る羽目になったが、それは真砂の部屋での話だ。
 深成のベッドは小さい。
 そこで一緒に寝るとなると、それこそぴったり引っ付かねばならない。

 だが他のメンバーの部屋を勝手に使うわけにもいかないし、そもそも皆、鍵をかけている。
 よってやはり、ベッドは二つしかないわけだ。
 狼狽える六郎に、深成は、うん、と軽く頷いた。

「そうだよね。六郎兄ちゃん、熱があるから、一緒に寝るのはしんどいよね。でも大丈夫」

 にこりと笑う。
 大丈夫、とはどういうことか。
 深成はそんなこと、気にしないということだろうか。

 そんなに自分と一緒に寝たいのだろうか、と焦る反面、そこまで自分を想ってくれているのかと嬉しく思う。

 だが、そんな六郎の考えは、深成の言葉で木端微塵に粉砕された。

「わらわは、真砂と寝るから」

 再び六郎フリーズ。
 見ると、真砂も少し目を見開いている。
 ということは、真砂が誘ったわけではないのだ。
 今初めて、深成が口にした案だろう。

「ね、いいでしょ?」

 くい、と真砂の袖を引っ張り、深成が言う。

「……まぁ、いいけどな」

「良かった。じゃ、うさちゃん持ってくるから」

 再びにこ、と笑い、深成がぬいぐるみを取りに、自分の部屋に入っていく。
 六郎は、はた、と我に返った。
< 163 / 497 >

この作品をシェア

pagetop