小咄
 とりあえず食事は、つつがなく終わった。
 悔しいが、真砂のシチューは絶品といっても過言でないほどのものであった。
 お蔭でほんわりと、身体も温まる。

「真砂ぉ。わらわ、先にお風呂入ってきていい?」

 洗い物の途中で手を止め、深成が真砂に声をかけた。
 六郎と対角線上のソファ(つまり六郎からもっとも遠い)に座ってTVを見ていた真砂が顔を上げる。
 ご飯は真砂が作ってくれたので、洗い物は深成がしていたのだが。

「何だか、停電になっちゃいそうなんだもん。皆寝ちゃってからお風呂中に停電になったら、わらわ、怖くて死んじゃうかもだし」

「誰より先に寝るお前が、例え最後に風呂に入ったところで、そんな遅くはならないと思うが」

 言いながらも、真砂は立ち上がった。

「あ、いいよ。上がってから、また洗うから」

「いい。風呂に入ってから洗い物すんのも嫌だろ。とっとと入ってこい」

 深成と洗い物を交代する真砂を、六郎は複雑な目で見た。
 前は他の皆がいたからだろうか、今日より冷たかったような。

 それとも前より妙な感情を踏まえた上で見ているから、そう感じるだけだろうか。
 相変わらず素っ気ないが、仲良さげにも見える。

「んじゃ入ってこようかな……。まだ大丈夫だよね?」

 ちょっと落ち着きなく外の様子を窺いつつ言う深成に、真砂はスポンジを泡立てながら答える。

「停電なんか、いつ起こるかわかるわけないだろ」

「だから怖いんだよぅ」

 半泣きで言う深成に、真砂はちらりと目を向けた。

「だったら、一緒に入るか?」

 真砂の口から出たその言葉に、ソファで少しうつらうつらしていた六郎の目が、ぱっちりと開いた。
 同時に勢いよく振り返る。

---ななななな、何だとおぉぉ? き、聞き違いか? それとも意味が違うのか? 一緒に入るのは、風呂ではないのかっ? まさかまさか、み、深成ちゃんと一緒に、ふ、ふ、風呂に……っっ!!---

 目まぐるしく動く脳みそは、一瞬にしてショートしたようだ。
 生え際が異様に熱を持ち、汗が噴き出す。

 同時に鼻の奥から、何やら熱い液体が流れてきた。
 熱が一気に上がり、ふらりと眩暈がする。

 そんな六郎の耳に、これまた信じられない声が飛び込んできた。

「えっ? いいの?」

 六郎の脳みそがフリーズした。
 ショートしたりフリーズしたり、精密機器なら故障してしまうところだ。

 さすがに真砂も、ちょっと驚いた顔をしている。
 それが、僅かに六郎を安心させた。

---よ、良かった。奴も一応、普通の感覚の持ち主なのだな。本気ではなかったのか---

 真砂が冗談で言ったとしても、この深成だと本気で真砂と風呂に入りそうだ。
 油断は出来ないのだが。
 だが珍しく、真砂が六郎の心配をぶった切ってくれた。

「まじかよ。阿呆なこと言ってねぇで、さっさと入ってこい」

 ぐい、と深成の額を押しのける。

「ええ? だって真砂が一緒に入るかって言ったんじゃん」

「……まぁ、お前がいいなら、俺は構わんのだがな。俺の前で、素っ裸になってもいいということだな?」

「あ、そっか。うん、それはちょっと、恥ずかしいかもね。怖くてそんなことまで気が回らなかった~」

 あははは、と笑い、深成は、てててて、と風呂場へ走って行った。

「……」

 大きく息を吐き、六郎はソファに倒れ込んだ。
 一気に上がった体温が、急速に冷えていく。
 風邪っ引きの身体には、甚だよろしくない状況だ。

---つっ……疲れたっ……!!---

 ぐったりとソファに寝そべった六郎は、風邪薬と受けた大きなダメージの影響で、再び睡魔に襲われた。
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