小咄
「深成ちゃんは、清五郎課長とは、あんまり面識ないよね? いい機会だから、近くにしようね。はい、真砂課長の隣へどうぞ」

「じゃあ俺、その隣~」

 へら、と笑いながら、捨吉が深成の横に座る。
 そして、深成にグラスを渡すと、ビールをなみなみと注いだ。

「あきちゃん、前においでよ~」

 ぱんぱん、と捨吉に自分の前を叩きつつ言われ、あきは千代の隣へ。
 各々席が決まったところで、清五郎が持っていたお猪口を軽く掲げた。

「そんじゃ、お疲れさん」

「お疲れ様~」

 皆が持った飲み物を掲げ、口をつける。
 深成も捨吉に渡されたビールを、ごくりと飲んだ。
 途端にその眉間に、深々と皺が寄る。

「にっが~~!」

 ぎゅっと目を瞑って舌を出す深成に、清五郎は笑い声を上げた。

「はははっ。ビールが苦いなんて、ほんとにお子様の感想だな。まぁ、ビールは好き嫌いもあるし、ビールが飲めないからって弱いとは限らんがな」

「そうだよ~? お酒は慣れもあるんだからね? 深成ももうちょっと飲めないと、この先大変だよぉ? ほら、とりあえずその一杯ぐらいは飲まないと~」

 捨吉が、ほぼ深成にもたれながら言う。
 べろんべろんな捨吉に言われても、あまり説得力はないのだが。

「これも甘かったら、まだマシなのに~」

 言いつつ、深成が再度グラスに口をつける。

「ねぇ千代姐さん。研修に行ってた会社って、どんなところだったんです?」

 あきの質問に、千代は少し顔をしかめた。

「古臭いところだよ。会社というわりには日本家屋みたいだったし。コピー機はないし、ファイルはないし」

「ええ? でも結構な会社だって聞きましたけど」

 そもそも会社にコピー機がないというのがわからない。
 首をかしげるあきに、清五郎が口を挟んだ。

「会社自体は小さいがな。歴史が半端ない。あそこの社長は相当力もあるし。ま、大企業ではないが、会社をお遊びでやってても、十分やっていける人なんだな」

「へぇ? よくわかんないけど。順番的には、次は清五郎課長のところの、ゆいちゃんが行くんですか?」

「ゆいか……。あいつはどうかな。うちの部署よりも、真砂の部署のほうが、優秀な人材が揃ってるしなぁ。ゆいよりも先に、捨吉が行くかもな」

「俺ですかぁ?」

 据わった目で、捨吉が顔を上げた。

「お前が多分、今の若手の中で一番の出世株だ。ま、お千代さんには敵わんが、仕事も出来るしな」
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