小咄
「じゃあ課長っ! 今年はお世話になりましたぁ! 来年も、どうぞよろしくご指導お願いします!!」

 べろんべろんで目の据わった捨吉が、店の出口でびしっと真砂に敬礼した。

「はぁ。外はやっぱり寒いわねぇ。雪でも降るのかしら」

 あきが手を擦りつつ、空を見上げる。
 そしてふと、後ろを振り返った。

「千代姐さん? どうしたんです?」

 なかなか店から出てこない千代を呼んでみると、廊下の奥から千代が顔を出した。

「深成が潰れちゃってんだよ」

「ええ?」

 慌てて千代のほうへと駆けて行くと、そこはトイレ。
 深成が便座の蓋に座って、ぐったりと壁にもたれている。

「ちょっと深成ちゃん。大丈夫なの? そんなに飲んでなかったよね?」

 くたりとはしているが、顔色が悪いわけでもない。
 千代が、コップに水を入れて持ってきた。

「ほら。とにかく水分摂って、出来れば出しちまいな。ビールだから、そんな酷いことにはならないだろ」

「ん……。目が回るぅ~」

 のろのろと身体を起こし、水を受け取った深成だが、すぐに千代にもたれかかった。

「もぅ。ほら、水飲んで」

 しゃがみ込んで、千代が深成を支えつつ水を飲ませてやる。
 ごくごく、と喉を鳴らして水を飲んだ深成は、きゅむ~っと千代に抱き付いた。

「ん~……。千代、良い匂い~」

「もぅ、何やってんだか。ほら、とりあえず用足しちまいなよ。すぐそこにいるから、気持ち悪くなったら呼ぶんだよ」

 とんとん、と幼子にするように背を叩き、千代は深成の上体を起こすと、個室のドアを閉めた。
 しばらくすると、ごそごそと中から音が聞こえた。
 自力で用を足すぐらいは出来るようだ。

 安心し、あきはトイレのドアに手をかけて千代を見た。

「気持ち悪くないなら、大丈夫ですよね。あたし、課長たちに言ってきますね」

「ああ。あっちも捨吉が潰れてるかもしれないけど」

 そういえば、とトイレから出ると、案の定男子トイレの前に、清五郎と真砂がいた。

「あら? 捨吉くん、さっきはあんなに元気だったじゃないですか」

「元気というか。べろんべろんだったぜ」

 清五郎が苦笑いしつつ言う。
 そして、腕時計に目を落とした。

「結構な時間だな。酔っ払いが二人か。どうするかな」

「どっちも俺の部下だよなぁ」

 渋い顔で、真砂が言う。
 もっとも今日は、清五郎の部下はいないのだが。
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