小咄
 運の悪いことに、真砂は捨吉の家も深成の家も知っている。
 送るのに、何ら問題ないわけだ。

「まぁた、この酔っ払い共を連れて帰らにゃならんのか……」

 うんざりと、真砂がトイレを睨む。
 その声に、ばん! と男子トイレの扉が開いた。

「らいじょうぶれす!! 尊敬する課長に、迷惑はかけません!」

 呂律の回ってない捨吉が、びしっと真砂に敬礼する。
 どこが大丈夫なんだか。

 この上なく渋い顔で真砂が顔を上げると、女子トイレから深成を連れて、千代が出てきた。
 ぽやんとした表情ではあるが、深成はちゃんと自分の足で歩いている。
 若干千代にもたれかかっているが、ただ甘えているだけにも見えるし、そう危なげもなさそうだ。

「課長。お待たせしました」

 千代が、深成を支えながら、ちょっと足を速めた。
 その途端、すてんと深成がその場に転がった。
 引っ張られ、千代も尻もちをつく。

「きゃっ! ちょ、ちょいと深成。大丈夫かいっ?」

「うう、千代ぉ。眠たいよぅ~」

 へたり込んだまま、深成は目を擦る。
 ぽやんとした表情なのは、眠いからなのか。
 清五郎が歩み寄り、千代の手を取った。

「大丈夫か?」

「ええ。私は大丈夫ですけど」

 立ち上がろうにも、反対の腕に深成がへばりついている。

「ほら深成。とりあえず立って」

 千代が起こそうとするが、深成はふるふると首を振る。

「やだ~。わらわ、もう眠くて眠くて死んじゃいそう~」

 うわぁん、と泣き喚く。
 焦った千代が、出したハンカチで深成の顔を拭いていると、いきなりぐいっと真砂が深成を引っ張った。

「ったく、貴様はどこまで子供なんだ。そんなところに、いつまでもへたり込んでるんじゃない」

「……あ、課長だ~」

 にぱ、と笑い、深成は真砂に向かって、両手を差し伸べた。
 幼子が抱っこをせがむような態度だ。
 しかも違和感がない。

「……まるで真砂の子供だな」

 千代を助け起こしながら、清五郎が呆れたように言う。
 真砂は眉間に皺を寄せたまま、くるりと深成に背を向けてしゃがんだ。
 そして、さっさと深成を負ぶう。

「とにかく、出よう」

 短く言い、真砂は深成を負ぶったまま、店を出た。
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