小咄
---あららっ。何気に爆弾発言ね。清五郎課長なんて、それこそそんなに絡みないじゃない。そりゃ真砂課長と仲良しだけど、真砂課長がそんなことまで喋るとも思えないし。別に一課に入り浸りってわけでもないのに、そこまで気付いてるんだ---

 やはり侮れない、と、とりあえずあきは、横の千代に隠れつつ、清五郎を窺った。

「派遣ちゃんは、何か他と違うもんな。傍に置いておきたい気持ちもわかるぜ」

「え、それは、深成ちゃんが可愛いからですか?」

 折角隠れて窺っていたくせに、好奇心には勝てず、あきはずいずいっと清五郎に突っ込んだ。
 後ろから捨吉が、うんうんと頷く。

「そうだね~。確かに可愛いし、やっぱり羽月には勿体ない」

---や、やっぱりあの子は、深成ちゃんを狙っているんだな---

 六郎が改めて羽月をライバル認定したとき、意外に前の清五郎も、軽く同意した。

「そうだな。あの子供には勿体ないかもな」

---こ、この人までライバルなのかっ?---

 若干青ざめつつ、六郎は涼しい顔でウィスキーの水割りを飲む清五郎を見た。

「何か、庇護欲を掻き立てる子だよな。捨吉ぐらいの若手だったら、そうでもないかもしれんが」

「そうなんだ~。でも確かに。てことは清五郎課長も、深成ちゃんのこと気に入ってるんですか」

 にやにやと、あきがさらに突っ込む。
 ちらりと千代を盗み見しながら。

「気に入らない奴はいないと思うぜ? まぁ、一課の女の子は皆いい子だよな」

 そう言って、ぽん、と横に座る千代の背を叩く。
 相変わらず本心の読めない男だ。
 六郎も、微妙な表情で清五郎を見た。

---ふ~む……。何かやっぱり、清五郎課長って、すっごい大人だわ。全然心が見えないし。六郎さんと同じ歳ぐらいじゃないの? 断然清五郎課長のほうが、対応が大人なのは気のせいかしら---

 グラスを傾けながら、あきはじろじろと六郎を見た。
 そして酒を取り上げ、変なものに手を出さないよう、深成に寿司を食べさせている真砂に目をやる。

「おい、尻尾まで食うな」

「え~? エビの尻尾って美味しいんだよ~」

「それはフライとかの話だろ! 生の尻尾なんか食うなっ」

「一緒じゃないの~?」

 握り寿司のエビの尻尾まで口に入れる深成を叱りつつ、真砂が今しも口の中に消えようとしている尻尾を指で摘む。
 エビの尻尾など小さいので、当然真砂の指が深成の唇に当たる。

 真砂はそんなことは気にせず片手で深成の額を押さえ、片手で尻尾を奪う。
 そんな様子を六郎が青い顔で眺めた。

「トイレ~」

 ふらりと立ち上がり、深成が廊下に出ていく。
 ちらりと真砂が深成を見たが、さすがにそこまで世話は焼かない。
 が、六郎が少ししてから席を立った。

「あ、あたしもちょっと。深成ちゃん、ちゃんと帰ってくるか心配だし」

 すかさずあきが、六郎を追うようにトイレに立った。
 あきも結構飲んでいるのに、さっぱり酔っている気配はない。
 それどころではないのか、単に強いのか。

 うきうきとトイレに向かうと、深成が手を洗っていた。

「深成ちゃん、大丈夫?」

 あきが声をかけると、こっくりと頷くが、目が据わっている。
 足元も結構ふらふらだ。

「ちょっと休もうか」

 とりあえずトイレから出たところにあるベンチで座っていると、六郎が出てきた。

「だ、大丈夫?」

 さっと駆け寄ってくる。
 あきの目尻が、ぐっと下がった。

「しんどいなら、帰る? 送っていくよ」

 六郎の言葉に、深成が顔を上げて、じぃ、と六郎を見る。
 目の前の男が誰かを確認しているようだ。
 やがて、ふるふると深成が首を振った。

「でも六郎さん。六郎さんの歓迎会なんだし、ご本人が抜けるわけにはいかないでしょ」

 目尻を下げたままのあきに言われ、六郎は少し困った顔をした。
 そこに、清五郎がやってくる。

「お? どうした? おや、派遣ちゃん、大丈夫なのか?」

 清五郎に覗き込まれ、深成は眠そうな目をごしごしと擦った。
 きょろ、と辺りを見回す。

「かちょーは?」

「もうそろそろ皆出てくるよ。といっても派遣ちゃんは、その様子じゃ二次会は無理か?」

「二次会? これから二次会ですか?」

 あきが聞きつつ廊下の先を見ると、皆がそれぞれ出てきていた。
 捨吉が、しきりに真砂を二次会に誘っている。

「深成。大丈夫かい?」

 千代がこちらに気付いて駆け寄ってくる。
 その手には、清五郎の荷物が持たれていた。

「お、悪い」

 千代から荷物を受け取る清五郎を、あきはじろじろと見た。

---おお、新婚夫婦みたい。ていうか千代姐さんも、ちゃっかりちゃんと清五郎課長の荷物を持ってくるなんて……---

 あらそういえば、あたしの荷物は、と見ると、捨吉があきの鞄と深成の鞄と、六郎の鞄まで持っている。

「あ、捨吉くん、ありがとう」

 慌てて駆け寄り、あきは荷物を受け取った。
 真砂があきを見、先に座る深成を見る。

「あいつは大丈夫なのか」

「あ、ええ。いつもの通り、眠いだけのようですよ」

 真砂があきと話していると、六郎が深成に何か言い、こちらに近づいてきた。

「真砂課長。今日はありがとうございました。申し訳ないですけど、私はこれで」

 ぺこりと頭を下げる。
 そして、捨吉から自分の分と、深成の鞄を受け取った。

「ええ~? 六郎さん、二次会来ないの~?」

 べろんべろんな捨吉が、不満そうに言う。

「ああ、すまない。ついでに彼女を送っていくから」

 言いながら、ちらりと六郎が深成を見る。
 ぴき、と真砂の顔が引き攣った。
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