小咄
 それから一行は、買い物に向かった。

「今日の夕食は、六郎さんも一緒だったわね。深成、何にするの?」

 千代がカートを押しながら言う。
 元々家で夕食を一緒に食べるために、シェアハウスの皆に六郎を紹介したのだ。
 真砂と六郎の仲に一抹の不安は覚えるが、夜になれば捨吉もあきもいる。
 何とかなるだろう、と、深成は食材を物色した。

「ん〜……。お鍋かなぁ。真砂、何がいい?」

 ててて、と深成が、真砂の傍に駆け寄って聞く。
 そして、みかんの棚を指さした。

「あ、おみかん食べたい。真砂、おみかん買おうよ」

 ぐいぐいと、真砂の腕を引っ張る。

「……」

 六郎の心は、ざわついたままだ。
 何故深成は、何かと真砂を頼るのだろう。
 雰囲気的に、頼りがいがありそうなのは認めるが、全く優しさがない。

 考えてみれば、出会ってからこの男、全く笑顔がないのだ。
 深成に対してだけ見せる、底意地の悪そうな笑みしか見ていない。
 初対面の六郎に対しても、まるでそこにいないかのような扱いだ。

「六郎兄ちゃん、どうしたの?」

 ぼんやりしていた六郎に、不意に深成が声をかけた。
 はた、と我に返れば、深成が覗き込んでいる。
 その手には、みかんの大袋。

「えへへ。美味しそうでしょ? 真砂が選んだ果物はね、すっごく美味しいんだよ」

 にこにこと言う。
 大きなみかんの袋は、小さな深成の手に余って重そうだ。
 六郎は深成の手から、袋を取った。

「たまたまじゃないの? 大体彼、料理が出来るようにも見えないけど」

 悔しさも手伝って、ちょっと意地悪く言ってみる。
 だが深成は、あっさりと否定した。

「違うの。凄いんだよ。真砂の選ぶ果物に、外れはないんだ。お野菜とかも美味しいしさ。真砂、ああ見えて、料理上手なんだよ。真砂がいるときは、いっつも真砂がご飯作ってくれるし」

「えっ」

 意外な言葉に、六郎は心底驚いた顔をした。

「そうねぇ。お手伝いも、あんまり喜ばれないしね。料理中に下手に傍に寄ったら、包丁が飛んできそうだわ。そういえば、フライパンで叩かれそうになったこともある」

 頬に手を当てて言う千代に、六郎は何となく納得した。
 皆のご飯を作ることは意外だが、その態度は容易く想像出来る。

「つまり彼は、人に作って貰うよりは、自分で作る派、ということか」

「ていうかさ、人の作ったものを食べないの。だから、きっと今日も、真砂が作ってくれるよ」

 そう言って、深成は真砂の傍へと駆け寄っていった。
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