小咄
 夕食時。
 シェアハウスのメンバーが六郎を交えて、鍋を囲んでいた。
 捨吉とあきも合流し、賑やかな鍋パーティーのようだ。

 が、六郎はキッチンが気になってしょうがない。

 この鍋は、深成の言っていたとおり、真砂が用意した。
 今もまだ、真砂はキッチンに立っている。

 それはいいのだが、その真砂の横に、深成がついて、ちょいちょい手伝っているのだ。
 千代の話だと、手伝われるのも嫌がるということだったのに、聞こえてくる会話を聞いている限り、そうでもないような。

「おい、鶏肉出せ」

「これ? 胸肉だよね?」

「阿呆。煮込みはもも肉に決まってるだろ。お前、そんなことも知らんのか」

「何でよ。足より胸のが、柔らかそうじゃん」

「自分を考えてみれば、わかるだろ。お前の胸なんざ、柔らかさもない」

「ななな、何てこと言うのっ! 触ったこともないくせに!」

 きーっと噛み付く深成に、真砂は相変わらず冷めた目を向けた。
 そして、腕まくりをした手を、ちょいと突き出した。
 軽く、深成の胸に触れる。

「ほれ。いきなり骨に当たった」

---……!!!---

 様子を窺っていた六郎の目が見開かれる。
 あろうことか、深成の胸に触れるとは。
 しかも、特に何の反応も示さないとはどういうことだ。

 固まった六郎に、横にいた捨吉が、ビールの入ったグラスを差し出した。

「六郎さん? どうかした?」

「あ、あああ、あの、み、深成ちゃんとあの人は……」

 ショックな光景を見て、上手く口が回らない。
 動揺しまくりの六郎とは打って変わって、捨吉は、ちらりとキッチンに目をやると、何でもないことのように笑った。

「ああ、いつものことだよ。真砂さん、あんまりわらわら手伝われるの嫌いだし。それに手際良いからさ、返って邪魔になるんだよね」

 手伝わなくてもいいのか、と言いたいのだと理解したらしい。
 捨吉はそう言って、鍋の中に野菜を入れながら、ビールをぐいっと飲んだ。
 いつものことだ、と言うとおり、千代も気にすることなく梅酒を飲んでいる。

「さ、私たちは、先にやってましょう。六郎さん、遠慮なく食べて」

 いそいそと千代が、六郎の椀に煮えた野菜入れる。

 ふと六郎は、隅にちょこんと座るあきに目をやった。
 彼女だけは、じっとキッチンを見ている。

 だが、六郎のような眼差しではない。
 うっすら笑みを浮かべたその顔は、二人を微笑ましく見守っているようにも見える。

 実際は、あきの頭の中では、強烈な妄想が渦巻いているのだが。
 慣れた者なら、下がった目尻と上がった口角で、何を考えているのかわかるのだが。
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