小咄
 ふ、と目を開けると、全く見覚えのない景色が目に入る。
 あれ? と思いながら身を起こした深成は、やはり見覚えのない部屋の中に、焦ったようにきょろきょろと周りを見回した。

「え、どこ、ここ」

 見たこともない部屋だ。
 部屋というより事務所のようだが。

 殺風景なコンクリ打ちっぱなしに、小さなテーブルと一人掛けのソファがある。
 深成が寝ていたのはソファベッドのようだ。
 深成が不安そうにきょろきょろしていると、奥のドアががちゃりと開いた。

「あら、起きた?」

 出てきたのは片桐だ。
 どうやらドアの先は風呂場らしく、濡れた身体をバスタオルで包んでいる。

「えええっ! あ、あのっ! ていうか片桐さん! 服着てくださいっ」

 片桐の格好に驚いて、深成は着ていた毛布に潜り込みながら叫んだ。

---ていうか、こういうこと、昔あった。あのときも真砂、トランクスだけで……て、またわらわはっ!---

 何を見ても真砂を考えてしまう。
 毛布の中で、一人真砂でいっぱいの頭を叩いていると、片桐が、ちょい、と毛布をめくった。

「何やってるの。昨日子兎ちゃん、酔い潰れちゃったでしょ。大丈夫? 気分は悪くない?」

「あ……。……うん、それは大丈夫」

 ソファベッドの上に座り、深成は己の身体に目を落とした。
 服に乱れはない。

「安心なさい。意識のない子兎ちゃんに無体なことするほど飢えてないから」

 ウインクしながら言う片桐に、深成は、ほっと息をついた。
 その油断した隙に、片桐が素早く顔を寄せる。

「!!」

 一瞬だったが、頬に柔らかいものが触れた。

「ふふ、泊めてあげたお礼に、これぐらいは貰わないとね」

「か、片桐さん~~」

 キスされた頬を押さえ、深成が情けない顔をする。
 そんな深成の頭をぐりぐりと撫で、片桐は立ち上がった。

「シャワーしかないけど、浴びておいで。ここはお湯沸かすぐらいしかできないから、用意ができたらデート開始よ。まずご飯食べに行こう」

「ん、うん」

 きょろ、と落ち着きなく、深成はとりあえずシャワールームに入った。
 キッチンがなく、風呂もシャワーしかないということは、ここは片桐の家というわけではないのだろうか。

---ていうか、無断で外泊しちゃった。真砂、心配してるかな……---

 しかも男の人のところに、と考え、また深成は、はっとした。
 すぐに思考は真砂に行ってしまう。
 駄目駄目、と言い聞かせながら、思考を洗い流すように、深成はシャワーを勢いよく浴びた。
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