小咄
「……どういうことです」

 再び三人になったところで、男性が口を開いた。
 一番ダメージを受けている真砂は、そんなことには耳も貸さずにあきの去ったほうを呆然と見ている。

 あきは任せろと言ったが、気になってしょうがない。
 泣きながら駆け去っていった深成のことが、頭から離れない。

「えっとぉ……」

 モデル美女が、困ったように首を傾げる。
 それに、ずいっと男性が近付いた。

「さっきの様子だと、あなたはユリさんとさっきの子、二股をかけていた、ということになるのでは? ユリさん、知っていたんですか?」

「あの……。えっと」

「今日ユリさんに、きちんとお付き合いしている人がいる、と証明されて、僕はそれならば諦めようと思いました。でも……それがこんないい加減な関係でしたら、諦めもつきません」

「才蔵さん……。あの、私も才蔵さんのことは好きなんです。でも、でも駄目なんですっ!」

「何故です! 浮気されても、彼がいいんですか?」

「そうでなくて……。才蔵さんが、あまりに真面目でいい人だからですっ! きっと私の真の姿を知れば、あなたは立ち直れないほどのショックを受けるはずです。だから、それなら綺麗な思い出のままで終わらせて欲しいんです!」

「僕は何を知っても大丈夫ですよ! ユリさんがそこまで想ってくれているなら、全て話してください! 覚悟はできてます!」

 何だか真砂を置き去りに、ベタなドラマが展開されている。
 すでに真砂は修羅場になったところで戦いきれる体力もないほど消耗しているので、勝手に話が進んでいくのは、ありがたい展開といえばそうなのだが。

 ユリが、一旦口を噤み、きゅ、と唇を噛んだ。
 そして、意を決したように、キッと顔を上げる。

「わ、私……いえ、僕は男なんです!」

 しん、と沈黙が落ちた。
 今の発言はユリだ。
 先程までユリに胸の内を必死で訴えていた才蔵という男性の動きも止まっている。

「……え?」

「だ、だから、僕は女装が趣味の男なんです。完璧に女性に化けるから、叔母が面白がって、自社のマスコットとして使ってくれてるんです。まぁ会社案内とかのパンフレットに載るだけで、有名にはならないからいいと思ってたんですけど。それを才蔵さんが見てくれて」

 元々才蔵はmira商社と取引のある小さな会社の社員だ。
 たまたま商談に来ていたときに、パンフの撮影に来ていたユリに一目惚れし、思い切って声をかけた。
 真面目故、声をかけたといっても、パンフのことなどに終始し、色恋なニオイはなかった。

 それが良かったのか、結果的に悪かったのか、親しくなった二人はよく遊ぶようになったのだが、ユリは何となく才蔵が自分を女として見ているので、女装のままずるずる来てしまい、才蔵のほうはユリが男だとは露ほども思わず、想いをますます募らせてしまった。
 才蔵から真剣交際を申し込まれるに至り、焦ったユリがミラ子社長に相談し、真砂が恋人役に抜擢された、というわけだ。

「言いそびれてずっと来たのは悪かったと思ってます。気付いてるかな、と思ってたんですけど、才蔵さんに、きちんと付き合って欲しいって言われて困って」

「だから、男だって言えば、それで済んだんだ」

 ぼそ、と真砂が呟く。
 が、ユリはぶんぶんと首を振る。

「それも考えましたけど、才蔵さんは真面目だから、自分が好きになったのが男だって知ったら、物凄いショックを受けると思ったんです! だってそうでしょう? その気もないのに、自然に男に惚れてたなんて、ノーマルな人はショックだと思うんです! 真面目な人はなおさら。才蔵さんが立ち直れなくなったらどうしようって思い悩んで、それなら女として、普通に恋人がいるからって断ったほうがいいと思ったんです」

「ユリさん……」

「ごめんなさい! 普通に女の人に振られれば、才蔵さんもまた新しい恋に進めるでしょう? 才蔵さんのようないい人を、変な道に誘い込まなくても済むと思ったの」

「変じゃない!」

 いきなり才蔵が叫び、ずいっとユリに近付いた。

「確かに驚きましたけど、でもユリさんが美しいのには変わりない。僕は男に惚れたわけではない。ユリさんに惚れたんだ。そこまで僕のことを考えてくださったユリさんのことを、変だなんて思いません!」

「さ、才蔵さん……」

「全て知った上で、改めて言わせてください。僕はユリさんが好きだ。付き合ってください!」

「い、いいんですか?」

 折りしも日は西に傾き、まだ少し強い夕日が二人を照らす。
 るるる~とエンディングテーマが流れる中で、ひしっと抱きあう二人に背を向け、真砂は歩き出した。
 これでお役御免だろう。

「あ! 真砂さん、ありがとうございました! あなたのお陰で、幸せを掴めました!」

 ユリが、真砂の背に声をかける。
 才蔵も、ユリの肩を抱きながら、頭を下げた。

「お陰で俺のほうは壊れそうだがな」

 前を向いたまま、小さくぼそりとこぼして、真砂はとぼとぼと歩いて行った。
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