小咄
「でも、お芝居でもあんな綺麗な人と恋人同士を演じたんだったら、気持ちが動くかもじゃん。凄い美人だったし」

 俯いたままぼそぼそ深成が言うと、あきが、あ、と声を上げた。
 少し面白そうに、片桐と目を合わす。

「ていうかさ、何でわかんないの」

「あれ、片桐さんはわかったんですか?」

「当たり前でしょ。オネェの観察力なめるんじゃないわよ」

 自分で言っちゃったよ、この人、と思いつつ、あきは鞄からパンフレットを取り出した。
 それを、ずいっと深成の前に突き出す。

「この人でしょ」

 会社案内のパンフレットには、小さくだが、あのモデル美女がプリントされている。
 『イメージキャラクター・Yuri』と書かれていた。

「やっぱり悪い虫を追い払っての、お見合いだったんじゃないの?」

 まだ出るか、と言いたくなるほど涙の溜まった目で深成が言う。

「その子ね、社長の甥っ子なんだって」

「や、やっぱり! やっぱり実はそうなんじゃん! 真砂は社長のお気に入りだもんっ! これを機会に、一族に……て、あれ? 甥?」

「そう。甥」

 ぽろ、と落ちる涙と一緒に目玉まで落ちそうなほど目を見開き、深成があきを見た。
 次いで、パンフレットに視線を落とす。

「可愛いわよね。完璧な女装だわ。いわゆる男の娘ってやつね」

「俺も全然わかんなかったよ」

 捨吉も感心したように言う。
 会社のキャラクターなので、社員は存在は知っている。
 が、男だということは、誰も知らない。
 深成は派遣社員なので、存在自体を知らなかったのだ。

「うそ……」

「あたしにかかれば見抜けるけどね。あんたたちも、もうちょっと人を見る目を養いなさい」

 ふふふん、と鼻を鳴らし、片桐はあきと捨吉にカクテルを作った。

「あ、オレンジジュース」

「駄目よ、子兎ちゃんは。今日は彼氏のところに帰らなきゃでしょ?」

 そう言って、深成のグラスには本物の100%オレンジジュースを入れる。

「深成ちゃん、これ飲んだの?」

「うん。でも後半記憶がないや」

「駄目だよ、課長のいないところでこんなの飲んじゃ」

「オレンジジュースだと思ってたし」

「スクリュードライバーでお持ち帰りされる子の典型じゃない~」

 そういうあきは、全くカクテル効果なしの様子だ。
 何気に強いのである。

「あたしがお持ち帰りさせて貰ったけどね」

「もう片桐さん。それ、真砂課長の前で言ったら殺されますよ」

「あら何よ。元はと言えば、そいつが悪いんじゃない」

 つん、と悪びれもせず片桐が言う。

「どう子兎ちゃん。もしあたしのほうがいいってんなら、今日も泊まってく?」

 深成の頭を撫でながら言う片桐に、あきは少し目尻を下げた。

---あらあら。片桐さんって今までのライバルとは違うわね。余裕があるっていうか。今は真砂課長に余裕がなさすぎるから? いやでも片桐さんには普段の真砂課長でも余裕ぶっかませるかしら。六郎さんとは違うタイプよ?---

 これはこれで、ちょっと面白い。
 だがやはり、基本的には別れて欲しくないが。

---金曜の時点で真砂課長の憔悴っぷりは相当だったし、深成ちゃんが戻らないまま週明けになったら、課長仕事できるかしら。こっちが見てられなくなるかもだわ---

「しかし、もし俺がそんなこと頼まれたらどうしよう。俺も嘘つくの下手だし、もう前もってあきちゃんに言うかも。そっちのほうが良くない?」

 捨吉が言うと、深成が、うん、と頷いた。

「だから、真砂も言ってくれれば良かったんだよ」

「そう? それでも深成ちゃん、不安でしょ? 超絶美人な人としばらく会うからって言われて、うんわかったって言える? お芝居だってわかっても、もやもやしてたでしょ? 課長はきっと、ちょっとでも深成ちゃんを不安にさせたくなかったのよ。まぁそれが裏目に出て、大失敗したわけだけどね」

「そうね。浮気は絶対できない男ね。隠し通せないならするなっての」

 あははは、とあきと片桐が笑う。
 片桐たちと話している間に、ようやく深成の気持ちも晴れていった。
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