小咄
「違う違う。初めはそんな話じゃなかったんだけどさぁ、あの子、何かいきなり目についたことを口に出すっていうか……。前もあったんだけどさぁ、わらわのキスマークを、しれっと指摘すんの」
何も考えずに説明していた深成だが、ここまで言って、は、と口を噤んだ。
ヤバいことを口走ったような。
目の前のあきの目尻がぐぐーっと下がり、視線は深成の首筋辺りに落ちた。
「……へぇ~。ていうか、深成ちゃん、そういうときは、ちゃあんと朝鏡でチェックして、見えない服にしないと。でも課長ももうちょっと、気を付けてくれないとね~~」
「あわわわ……。あ、あきちゃん、なななな、何言ってるのかなぁ~~?」
この上なく怪しく目を泳がせながら、深成がすっとぼける。
「あらあら、課長じゃないの? え、そうなんだぁ~。他の人にキスマークつけられたってことなの?」
「ちち、違うよぅ~。わらわ、真砂以外とそんなことしない……て、あ、あきちゃん~~」
初めから誤魔化しようもないので、しらばっくれようもない。
黙ればいいのに、自らどんどん墓穴を掘る深成を、あきはこの上なく面白そうに眺めた。
「……名前で呼んでるんだぁ~……」
「ひいぃぃぃっ」
「もう深成ちゃん、課長とそういう仲なんだねぇ。もしかして、同棲しちゃってる?」
「っ!!!」
最早深成は声も出ない。
真っ赤な顔で、だらだら汗を流している。
あきはにやにやしながら、そんなタコのような深成を観察した。
「あたしねぇ、実はだ~いぶ前に、夜中に深成ちゃんと課長が一緒にいるとこ見てるのよね」
「ええええっ!!」
「ほら、いつだったかなぁ~。去年? 一昨年? ぐらいの大晦日」
真砂が初めて深成の家に泊まりに来たときだ、と気付き、深成は、くら、と眩暈がした。
そんな前からバレていたのか。
「ま、大晦日だし、あたしも捨吉くんといたんだけどね」
「あ、な、なぁんだ~」
あからさまに肩を撫で下ろす深成だったが、あきはまた、ぐぐっと目尻を下げた。
「でも、あのときから深成ちゃん、課長と凄くいい雰囲気だった。だって抱きついてたし」
「ひぃっ!」
実際は抱きついたわけではなく、深成が真砂の腕に引っ付いていただけだ。
それでも普通より密着度合いは高い。
何でもない関係ではないだろう。
……深成に限ってはわからないが。
「課長がそれを許すってことだけで、いかに課長が深成ちゃんを好いてるかがわかるわよね~。ていうか、あの課長がわざわざ夜に、しかも休みなのに会ってくれるっていうだけでも大したもんだし。あの頃から付き合ってたの?」
「うえぇぇ……。ええっと……いやあの、う~ん、わらわにもわかんない……」
「課長のほうが、先に深成ちゃんを好きになったってことかぁ~。凄いわねぇ~~」
「うう……。いやいや、わらわも課長のことは、昔から好きだったよ」
最早深成の墓穴はビルの地下まで達しそうだ。
あきも、ここぞとばかりにいつもなら心で思うことを、そのまま聞いてくる。
「あ~、それにしても、深成ちゃんが課長にキスマークをつけられるようなことされてるのは、何かちょっと意外かなぁ~。ああ、でも課長はやりそうだし」
「んでも真砂も、大分我慢してくれてたみたい」
「へーっ! 課長もやっぱり、惚れた相手には弱いのねぇ。あ、そっか。あのYuriのときも、大概弱ったもんね!」
あははは、と笑うが、深成は笑えない。
確かにあれは、真砂がいかに深成を想っているか知るきっかけにはなったが。
「あれはほんとに辛かったぁ~」
はぁ、とため息が出る。
いつの間にやら真砂の存在は、深成にとってはなくてはならないものになっている。
それは真砂も同じだが。
「で、あ、そうそう。え、惟道くんが何だって?」
ようやく本来の話題を思い出したあきが、話を戻した。
深成も少し考え、ああ、と手を打つ。
「うん、あの子って、結構周りとか関係なしに、目についたことを口に出すというか。何でも結構普通に言うじゃん?」
「ああ……そんな感じよね」
「でね、その……まぁわらわの跡をまた指摘されたからさ、そういうこと、普通に言うなって言ったのね。したら、人であればそういう欲望はあるだろ、みたいなことを、また当たり前のように言うの」
またってことは、結構頻繁にそういうことされてるのね、と、あきは密かに目尻を下げたが、そこは突っ込まなかった。
「でさ、当たり前みたいに言うから、惟道くんがそういうこと言うの意外って言ったの。そういうことと無縁ぽく見えない?」
「うん……。何か『欲』とは縁遠い感じはするわね」
「でしょ? そしたらね、昨日、二課の女の子とやったって! 無縁ではない、てことを言いたかったんだと思うけど、そういう具体例を挙げなくてもよくない? 二課の女の子って、ゆいさんだよね?」
「なるほど。ふ~む、じゃあこのゆいちゃんのメッセージはほんとってことか。ていうか、ゆいちゃん凄いな。いきなり食っちゃったってこと」
腕組みし、あきがちょっと呆れたように言った。
「ていうかさ、ゆいさんと惟道くんて付き合ってるの?」
「……どうかな。付き合いだしたってことなのかしら」
それにしても早い展開だ。
「まぁ、ゆいちゃんがいいならいいんだけど」
「そだね」
とりあえずチャイムは鳴ったことだし、二人は業務に戻ることにした。
何も考えずに説明していた深成だが、ここまで言って、は、と口を噤んだ。
ヤバいことを口走ったような。
目の前のあきの目尻がぐぐーっと下がり、視線は深成の首筋辺りに落ちた。
「……へぇ~。ていうか、深成ちゃん、そういうときは、ちゃあんと朝鏡でチェックして、見えない服にしないと。でも課長ももうちょっと、気を付けてくれないとね~~」
「あわわわ……。あ、あきちゃん、なななな、何言ってるのかなぁ~~?」
この上なく怪しく目を泳がせながら、深成がすっとぼける。
「あらあら、課長じゃないの? え、そうなんだぁ~。他の人にキスマークつけられたってことなの?」
「ちち、違うよぅ~。わらわ、真砂以外とそんなことしない……て、あ、あきちゃん~~」
初めから誤魔化しようもないので、しらばっくれようもない。
黙ればいいのに、自らどんどん墓穴を掘る深成を、あきはこの上なく面白そうに眺めた。
「……名前で呼んでるんだぁ~……」
「ひいぃぃぃっ」
「もう深成ちゃん、課長とそういう仲なんだねぇ。もしかして、同棲しちゃってる?」
「っ!!!」
最早深成は声も出ない。
真っ赤な顔で、だらだら汗を流している。
あきはにやにやしながら、そんなタコのような深成を観察した。
「あたしねぇ、実はだ~いぶ前に、夜中に深成ちゃんと課長が一緒にいるとこ見てるのよね」
「ええええっ!!」
「ほら、いつだったかなぁ~。去年? 一昨年? ぐらいの大晦日」
真砂が初めて深成の家に泊まりに来たときだ、と気付き、深成は、くら、と眩暈がした。
そんな前からバレていたのか。
「ま、大晦日だし、あたしも捨吉くんといたんだけどね」
「あ、な、なぁんだ~」
あからさまに肩を撫で下ろす深成だったが、あきはまた、ぐぐっと目尻を下げた。
「でも、あのときから深成ちゃん、課長と凄くいい雰囲気だった。だって抱きついてたし」
「ひぃっ!」
実際は抱きついたわけではなく、深成が真砂の腕に引っ付いていただけだ。
それでも普通より密着度合いは高い。
何でもない関係ではないだろう。
……深成に限ってはわからないが。
「課長がそれを許すってことだけで、いかに課長が深成ちゃんを好いてるかがわかるわよね~。ていうか、あの課長がわざわざ夜に、しかも休みなのに会ってくれるっていうだけでも大したもんだし。あの頃から付き合ってたの?」
「うえぇぇ……。ええっと……いやあの、う~ん、わらわにもわかんない……」
「課長のほうが、先に深成ちゃんを好きになったってことかぁ~。凄いわねぇ~~」
「うう……。いやいや、わらわも課長のことは、昔から好きだったよ」
最早深成の墓穴はビルの地下まで達しそうだ。
あきも、ここぞとばかりにいつもなら心で思うことを、そのまま聞いてくる。
「あ~、それにしても、深成ちゃんが課長にキスマークをつけられるようなことされてるのは、何かちょっと意外かなぁ~。ああ、でも課長はやりそうだし」
「んでも真砂も、大分我慢してくれてたみたい」
「へーっ! 課長もやっぱり、惚れた相手には弱いのねぇ。あ、そっか。あのYuriのときも、大概弱ったもんね!」
あははは、と笑うが、深成は笑えない。
確かにあれは、真砂がいかに深成を想っているか知るきっかけにはなったが。
「あれはほんとに辛かったぁ~」
はぁ、とため息が出る。
いつの間にやら真砂の存在は、深成にとってはなくてはならないものになっている。
それは真砂も同じだが。
「で、あ、そうそう。え、惟道くんが何だって?」
ようやく本来の話題を思い出したあきが、話を戻した。
深成も少し考え、ああ、と手を打つ。
「うん、あの子って、結構周りとか関係なしに、目についたことを口に出すというか。何でも結構普通に言うじゃん?」
「ああ……そんな感じよね」
「でね、その……まぁわらわの跡をまた指摘されたからさ、そういうこと、普通に言うなって言ったのね。したら、人であればそういう欲望はあるだろ、みたいなことを、また当たり前のように言うの」
またってことは、結構頻繁にそういうことされてるのね、と、あきは密かに目尻を下げたが、そこは突っ込まなかった。
「でさ、当たり前みたいに言うから、惟道くんがそういうこと言うの意外って言ったの。そういうことと無縁ぽく見えない?」
「うん……。何か『欲』とは縁遠い感じはするわね」
「でしょ? そしたらね、昨日、二課の女の子とやったって! 無縁ではない、てことを言いたかったんだと思うけど、そういう具体例を挙げなくてもよくない? 二課の女の子って、ゆいさんだよね?」
「なるほど。ふ~む、じゃあこのゆいちゃんのメッセージはほんとってことか。ていうか、ゆいちゃん凄いな。いきなり食っちゃったってこと」
腕組みし、あきがちょっと呆れたように言った。
「ていうかさ、ゆいさんと惟道くんて付き合ってるの?」
「……どうかな。付き合いだしたってことなのかしら」
それにしても早い展開だ。
「まぁ、ゆいちゃんがいいならいいんだけど」
「そだね」
とりあえずチャイムは鳴ったことだし、二人は業務に戻ることにした。