小咄
---で、でも確かに、あのとき初めてキスされてない? そ、そうだ! ベッドに押し倒されたじゃんっ!---

 そこまでの過程に、大いに問題があったのだが、生憎深成にとっては普通の行動だったので、己の行動には思考が及ばない。

---あれ? でも真砂、自分のお家を知ってるのはわらわだけだって言ってたよね。いまだにほんとに誰も知らないみたいだし。てことは、今まで誰もお家に誘ったことなんかないってことか。じゃあ真砂が自らお家に連れて行ってくれたのはわらわだけってことで、あの時から真砂はわらわを好いてくれてたのかな---

 赤くなっていろいろ考えている深成を、あきは、じいぃ~~っと眺めた。
 ゆいの言葉に反応する深成がわかりやすいというのもあるが、あきの洞察力も並みではない。

---へぇ~……。どうやら深成ちゃんは、飲み会で課長に送られたときはお持ち帰りされてたってことかしら? でもこの反応からすると、何もなかったってことか。これまた意外だわ。課長って意外と奥手? 部下だから気を遣ったとか? いやぁ、あの課長がそんな優しいかしら~?---

 過去の関係を、あきは確実に暴いていく。
 空恐ろしい能力である。

 そうこうしているうちに、惟道が帰って来た。
 ブースの横を通ったときに、目ざとくゆいが見つけ、駆け出していく。

「やれやれ。あのガッツは見習いたいところでもあるけど」

「そうだね。ゆいさんには、ああいう大人し目の子が合うのかな」

 惟道に関しては、大人しい、というよりは、ただただぼーっとしている感じだが。

「にしても深成ちゃん。結構前から課長にお持ち帰りされてたのねぇ~」

 はた、と気付けば、あきがにまにましながら、深成を見ている。
 あわわ、と内心焦りながら、深成はお弁当箱を片付けた。

「な、何言ってんの。そんなこと……」

「深成ちゃん、結構飲み会で潰れてたじゃない。そのときはいっつも課長が送ってたし、さっきの言い方だったらその後課長のお家に行ってたんじゃないの?」

「ひいぃぃっ! そそそ、そんなっ」

 何ともわかりやすい。
 犯罪など絶対に起こせないだろう。

「一体いつからそういう仲なのよ~」

 ぐいぐいと突っ込んでくるあきに、深成は慌てて両手を振った。

「違う違う。お家に行ったっても、何もなかったもん。うん、ほら、さすがにその辺に捨てて行くわけにはいかないでしょ。だから、保護されたって感じ」

「ふふ。あの課長だったら、どうでもいい子だったらその辺に捨てていくわよ」

 やりかねないが、一応真砂は上司としての立場があるのだから、誰であろうと部下であれば一応何とかするだろう。
 家には連れて行かないだろうが。

「ま、課長は初めっから深成ちゃんのことは気に入ってたんだろうしね。ふふふ、そろそろプロポーズとか、されるんじゃない?」

「そ、そんなぁ~」

 あははは、と笑って誤魔化す。
 プロポーズは何年も前にされている。
 はたしてそれが、本当にプロポーズなのかは疑問だが。

---ほんとに本気で結婚しようと思ったら、真砂はまた、ちゃんとプロポーズしてくれるのかな---

 今までは気付かないぐらいのさりげなさで、さらっと言われてきた。
 いや、決してさりげなく言っているわけではないのだが、あまりに普通に言うので気付かないというか。

「んでもプロポーズって、皆どんな風にするんだろうね」

 ちゃんと、と漠然と思っても、その『ちゃんとした』プロポーズがどんなものかがわからない。
 あきもちょっと考えた。

「そうねぇ。ベタなところでは、バラの花束持って跪いたりして?」

「そんなの、ほんとにする人いるのかなぁ~」

 あははは~っと二人して笑う。
 ベタといえばベタだが、見たことはないし、やられるこちらも恥ずかしい。

「でも案外、清五郎課長だったら似合いそう。違和感ないかも」

「あ~、確かに。そういえばホワイトデーもバラの花束って言ってたね。何か王子様系を王道で行く人だねぇ。千代も、そういう華やかなシチュエーションが似合いそう」

 うんうん、と頷きながら、深成が言う。

「反対に、真砂課長は絶対しなさそう。花束自体が『貰ってどうする』的なものだろうし」

「あはは。うん、そうかも」

「でも深成ちゃんがねだれば、やってくれるかもよ?」

「やだよ。恥ずかしい」

「深成ちゃんだったら、ぬいぐるみに指輪をつけて渡してくれるかも」

「あっ、それは嬉しいかも」

「でもそれは、課長が恥ずかしいかもね」

「そんなことないよー。ぬいぐるみも、ねだったら買ってきてくれたよ」

 誘導尋問に引っかかり、ぽろっと深成がバラしてしまう。
 あきの目尻は下がりっぱなしだ。
< 468 / 497 >

この作品をシェア

pagetop