小咄
「あ、あんちゃんが一番固そう」

 先の失言を流すべく、深成が話を戻す。

「そういえば、交際を申し込まれたときも固かった。あはは、でもどうだろう。だってもう相手の気持ちはわかってるんだし、そこまで緊張しないかも」

「あ、そっか。そうかもね」

 なかなか深成と真砂の関係が露わになったところで、お昼休憩終了のチャイムが鳴る。
 午後からは入力済みの資料の保管方法などを教えるために、資料室に行かねばならない。

「ついでにちょっと、古すぎるものとかの整理も頼む。適当に処分できるものを、あきに教わって分けておいてくれ。ちょっとでも人数の多いときのほうが楽だろう」

 真砂に言われ、あきと共に二課に行く。
 年度末も近いので、今のうちに少し整理しようというのも嘘ではないが、やはり深成を惟道と二人にするのが気になったのだろう。

 六郎のような心配はしていないが、深成が怖がっていたというのもある。
 ちょっと得体が知れない、というのも心配の種だろう。
 最近真砂は深成に激甘である。

 その深成はあからさまにほっとし、あきの目尻は相変わらず下がっているのだが。

「惟道くん、資料室に行くよ」

 惟道を誘いに二課に行ったときに、ゆいがやけに不機嫌そうにしているのに気付いた。
 惟道のことだろう。
 ゆいのことだから、昼に誰とどこに行ったのか、すぐに聞き出したに違いない。

「ゆいちゃんもねぇ、別にお昼に一緒するぐらい、いいじゃないねぇ」

 資料室に入りながら、あきがちょっと困ったように惟道に言う。

「あの女子は、だから怒っているのか?」

 一応能面惟道も、ゆいの機嫌が悪いのはわかるらしい。

「そうだと思う。だってそれ以外に、惟道くんが怒られるようなことないでしょ?」

「何故俺が他の者と昼飯を食っただけで怒られるのかがわからんが」

「そうね……。もっともだわ」

 やはり惟道は、ゆいと付き合っているとは思っていない。
 一応付き合っているのであれば、異性と二人で食事に行けば、相手がいい気はしないことぐらいはわかろう。
 気にしない人もいるだろうが、明らかにゆいの機嫌は昼から悪いのだから、理由はすぐにわかるはずだ。

「惟道くんは、ゆいちゃんと付き合ってるわけでは……ないのよね?」

 あきが聞いてみると、惟道は首を傾げた。
 その女子にも聞かれたが、と深成を指差す。

「付き合う、というのは何をもってそう言うのだ。別にそのような話は、あの女子には言われておらぬ。昔からそうだが、近付いてくる女子というのは、皆しばらくすると同じことをしたがる。そういうことをするのが、付き合うということか?」

「うーん? えっとぉ」

 あきは少し困ったように深成を見た。
 同じこと、というのは身体の関係のことだろう。

「そ、そうとも限らないけどさ」

「だったら別に、俺とあの女子はどういう関係でもない」

 うーん、と納得いかないながらも、あきはとりあえず引き下がった。
 どうも感覚が違う。
 有体に言えば、『やっただけ』ということだ。

「でもゆいちゃん、お昼のこと根掘り葉掘り聞いてきたんじゃない? 彼女でもないのに突っ込まれるのは嫌じゃないの?」

「いろいろ聞かれたが、別に疑問に思ったのであれば聞くだろう」

 そういうことではないのだが。
 全くもって感情というものが感じられない男だ。

「ところでお昼に誘いに来た子って誰? わらわも知らないのに、惟道くん凄いね~」

 妙な空気になってしまったところで、深成が無邪気に口を挟んだ。
 そういえば、派遣やバイトは一つの部署や同じフロアでない限り、他の部署のことなど知らないものだが、多分見目良い惟道のことは、他の部署でも噂になっているのだろう。
 朝などに見かけた誰かが騒いだのかもしれない。

「さぁ、誰だろうな」

 相変わらずの能面で、惟道が呟く。
 一時間一緒にいたであろうに、名前も覚えていないのか。

---不思議すぎる---

 あきも深成も、お互い顔を見合わせ、同じことを思った。
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