小咄
「ほ、ほら。惟道くんも、ここ最近はいろんな人と喋る機会も増えたでしょ。その中で、いいな、とか楽しいと思える人って、いたりしなかった? ゆいさんとか、楽しい人でしょ?」

 このまま質問攻めにされたらまずい、と深成は二人の間に割って入った。
 その様子を、あきがにまにましながら見ている。

「あの二課の女子か。表情がよく変わるな、とは思うが」

「ゆいは気分屋だからなぁ。機嫌の良し悪しもめまぐるしいし」

 相変わらず、清五郎は楽しそうだ。

「だが、そういう奴のほうが、お前も楽しくないか? 真逆のタイプだろう?」

「楽しい……とは思いませんが」

 そもそも『楽しい』とはどういうことか、自体がわかっていないような気がする。
 いつでも同じ表情。
 笑ったところなど想像もつかない。

「全然見えない奴だなぁ。一体お前、毎日女子に誘われてるが、そんなんじゃ疲れないか?」

 呆れたように言う清五郎に、惟道はまた、首を傾げた。

「俺は別に疲れません。勝手に女子が喋っているし、皆が皆、その日のうちに身体を求めるわけでもない。さすがにそれが毎日だと疲れると思いますが」

 思わぬ発言に、皆ぎょっとする。
 どうやらこの言い方だと、最後までやったのは、ゆいだけではないようだ。

「……あのな。管理職として一言言っておくが、手当たり次第に社内の女子に手を付けるようなことはしないでくれよ」

 さすがの清五郎も、若干渋い顔で注意する。
 が、惟道のほうは心外だ、という顔をした。

「俺は女子の要求を聞いているだけです。食事がしたいと言えば食事に行くし、その後送って欲しいと言えば送っていく。ホテルに行きたいと言えば行くし、家に寄って行けと言われれば寄って行く」

 またも淡々と言う。
 聞けば聞くほどロボットのようだ。

「それがお前は普通なのか?」

 真砂が聞くと、惟道はこっくりと頷いた。

「あなた方は違うのか?」

 逆に聞き返され、真砂は妙な顔をした。
 本気で言っている内容とも思えないのだが、惟道の表情は真剣だ。

 というより、表情がないのだが。
 澄んだ瞳に全くの無表情。
 思考回路もまるでロボットだ。

 真砂の微妙な表情を受け、惟道は目の前の棚に視線を戻した。
 そして、ぽつりと呟く。

「初めは皆、この外見に惹かれるようだ。だが少しすると離れて行く。気味が悪いらしい」

「……気味が悪いというか、ちょっと他と考え方が違うから、戸惑うかな」

 ここまで酷くはないが、自分も共感できるところはあるので、真砂はとりあえずフォローを入れた。
 周りに一切興味がない、というところは大いに共感できるのだ。

 ただ惟道の場合は、性格の問題というよりは、そういう感情が端からない感じなのだが。
 そしてそこまで感情のない人間というものが存在するのか、というところで不気味に思われるのだろう。

 若干空気が重くなったところで、いきなり電子音が響く。
 皆驚いたのに、惟道だけが能面のままポケットから携帯を取り出した。

 本当にこの男は、あらゆる感情というものがないらしい。
 お化け屋敷や絶叫マシンに乗せてみたい、とあきは密かに思った。

 絶叫マシンはともかく、お化け屋敷でも常にこのテンションであれば、頼もしいことこの上ない。
 そんなどうでもいいことを考えていると、惟道が、ちら、と清五郎を見た。

「家人からです」

「ああ。いいよ、出て」

 清五郎の許可を貰い、惟道の指が画面をスライドした途端。

『惟道っ! ちょっと毎日ご飯いらないって、毎日毎日どこをほっつき歩いておるのじゃっ!!』

 甲高い声が資料室中に響く。
 その瞬間、惟道が驚いた顔をした。

 おおっ? と一同の目が釘付けになる。
 今しがた全ての感情がない、と認定された惟道が驚いた。
 ちゃんと人間だった、という安心感と、驚くことがあるのであれば、お化け屋敷は無理かも、というあきのみの落胆が各々に広がる。

『毎日章親はおぬしの分の飯を作るべきか否かに、ぎりぎりまで悩んでおるのだぞ』

「章親が作るわけではなかろう。だがすまぬ」

『いらぬのであれば、毎日もうちょっと早くに言わぬか! 毛玉も遊び相手がおらぬで不貞腐れておるぞ。我に纏わりついてくるから鬱陶しいわ』

『ちょっと魔﨡。惟道だってバイトが忙しいんだから、邪魔しちゃ駄目だよ』

『何を言うか。奴は大学に入ってからというもの、すっかりグレてしまっておる。門限破りはこの魔﨡様が許さぬ』

『惟道だって、もう大人なんだから~』

 電話の向こうが騒がしい。
 先の惟道の説明からすると、電話をかけてきたのは乱暴者な姉で、いなしているのが人のいい心配性の弟か。
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