小咄
「真砂ぉ~」

 その日も真砂が帰るなり、深成がたたたーっと駆け寄ってきて、ぺたりと胸に張り付く。

「今日はひやひやものだったぁ~。あの子がちょっと打ち解けたのは良かったけど」

「お前もなぁ、誰彼構わず愛想振りまくな」

「振りまいてないっ」

「自覚がないから怖いんだよ。俺にするような態度を他の野郎に取るんじゃねぇよ」

「そんなことしてないよー」

「野郎にそういう顔を向けるな」

 むに、と軽くほっぺたを抓られる。

「お前はああいうのがタイプなのか?」

「そんなことないもん」

「でも清五郎も言ってたが、あいつと俺は似てるぜ。自分でもちょっと思う」

「うん、わらわも初めはちょっと思った」

「似てるなら、あいつにぐいぐい迫られたら落ちるんじゃないのか。俺はそんなに迫るってことないしな」

 ちょっと不貞腐れたように言う真砂に、深成は、ぷ、と吹き出した。

「真砂、迫ってないと思ってるんだ? 付き合ってないときから、結構ぐいぐい来てたじゃん。キスしまくりだったしさ~」

 実際はその迫り方はごく自然と言えなくもなかったので、迫られたほうもぐいぐい来てる、とは思わないのだが、行動をよく考えてみると、かなりぐいぐい来ているのだ。
 ぐいぐい迫ることを自然にする男も珍しい。

「そういえばそうか。……まぁ俺は、欲しいと思った奴は手に入れるし」

「今までもそうだったの?」

「今までそんな欲しいと思った奴などいない」

 そう言って、深成の腰に手を回すと、覆い被さるようにキスをする。

「わらわもねぇ、さっきも言ったけど、初めは惟道くんと真砂は似てると思ったけど、やっぱり違うよ。真砂のほうが頼り甲斐があるし、表情もあるし。それに優しいし」

 真砂に抱きついたまま、深成がにこにこと言う。
 そして、手を真砂の頬に添えた。

「それにね、真砂のほうが、ずーっと格好いい」

 にこ、と笑い、背伸びをして真砂にキスをする。
 やっと真砂が、息をついて口角を上げた。

「真砂、ほんとに心配性だよね。ちょっとはわらわを信用してよ」

「してるよ。でもこればっかりは、信用するとかじゃない。俺はそんな完璧な人間じゃないからな」

 つまり、深成が絶対離れて行かないという自信が持てるほど完璧ではない、ということだ。
 確かに性格含めると、清五郎のような男を完璧というのだろう。

「う~もう、わかってないなぁ~。真砂の魅力はそこにあるの。自分勝手な俺様でも、わらわのことちゃんと大事にしてくれるもん。皆そういうところがわかってるから、真砂だって人気あるんじゃん。ただただ勝手なだけの人になんか惹かれないよ。真砂がそんな完璧な人だったら、わらわ気後れしちゃう。それこそ、いつか誰かに取られちゃうんじゃないかって不安でしょうがないよ」

 今でもちょっと不安なのに、と小さく言う深成に、真砂は深成の腰に回した手に力を入れた。

「この俺が、こんなに愛してるのに?」

「……『この俺』って言い方が、自信満々に聞こえるんだけどな~」

「まぁ、俺がここまで想う奴を、そうそう逃す気はないけどな」

「そう言ってくれると安心する。えへ、最近真砂もちゃんと好きだって言ってくれるから、わらわ、安心なんだ~」

 胸やけがしそうなほどいちゃいちゃした後、ようやく夕食にありつきながら、ふと深成は顔を上げた。

「そだ。ね、あんちゃんとあきちゃんって、喧嘩とかしてるのかな」

「ん?」

「わらわは惟道くんに誘われても絶対行かないけどさ、あきちゃん、ちょっとヤバそうだったじゃん」

「そう……かな? まぁ、あれだけ人気のある奴から言われたら、悪い気はしないんだろうけど。でもちゃんと断ってたじゃないか」

「そうだけどさ。もうちょっと惟道くんの押しが強かったら、あきちゃん、靡いちゃうような気がする」

「最近捨吉が出張続きでいないからかな?」

 真砂もあの二人の関係は、特に聞いてないらしい。
 傍目からすると、穏やか~なお付き合いなのだろうが。

「あきちゃんも、そんな刺激を求める人じゃないと思うんだけど」

「でもずっと穏やかだったら、飽きるのも早いかもしれん。あきも普段は大人しいが、たまに本気で怒ると結構激しいし」

「う~ん、そっかぁ。あんちゃんもあきちゃんも、別れて欲しくないんだけどなぁ」

「こればっかりは何ともできんな」

 捨吉の出張は、明日か明後日までのようだ。
 帰ってくれば、また関係も修復するだろう。
 はたして本当に危機に陥っているのかは不明なのだが。
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