傷ついてもいい
夕方。
麻衣子と一緒に電車に乗り、斎藤に指定された店に向かった。

土曜日とあって電車は、これから遊びに行くらしい人達で割に混み合っている。

「なんか緊張してきた…」

だんだんと無口になる麻衣子をなだめながら何気なく車内を見渡す。

…あ…

窓の近くでひときわ目をひく女の子がいる。

柚香だった。

「麻衣子、ちょっと知り合いがいるから話してきていい?」

「え?そうなの?うん。いいけど」

佳奈は、麻衣子に断ると、柚香に近づいていった。

「あの、柚香さん?」

「え?」

柚香は、少し驚いて佳奈を見た。

「ああ、花村さんでしたっけ」

柚香は、嬉しそうに笑った。

「こんばんは。遊びに行くの?」

「いえ、これからバイトです」

「あ、そっか。土曜日なら、稼ぎ時だね」

佳奈は、柚香や直己の働くあの店を想像する。
さぞかし華やかなことだろう。

「あの、相澤くんは、もう退院したのかな?」

「あ、はい。もう、元気に働いてます。
あ、それで」

柚香は、少し佳奈の耳元に口を寄せた。

「私達、付き合うことに」

「え?そうなの?」

「はい」

柚香は、恥ずかしそうに頷くと、佳奈を見た。

「花村さんのおかげ、かも」

「え、なんで?」

「なんかあの時、危機感を感じたから、私」

クスクスと楽しそうに柚香は笑う。

「ぼやぼやしてたら取られちゃうって思って。でも、花村さん彼氏いたんですね。相澤くんから聞きました」

「あ、うん。そうなんだ。もう結婚も決まってて。これから彼に会うの」

余計なことまでベラベラと喋る自分の口を憎みそうになる。

「そうなんですか。お幸せに」

「うん、柚香さんも」

じゃあ、と会釈をして柚香から離れ、麻衣子の元に戻った。

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