月光花
その時、俺は全てを知った。この花は、永遠に手に入れることができないということを。
魂を捧げてしまえば、生き返ることはできない。そして、誰も他人の為に命を捨てたいとは思わない。
この場に行き着いた人物は、最後の選択で断念してしまう。
しかし噂は残るが、肝心な部分は伝わらない。
人間は夢を追い掛ける生き物とされているが、不必要な部分は必然的に省略されてしまったのだろう。
俺は、言葉に困る。
命を失う――それは、容易い選択ではない。
柚義は俺に、刃物を手渡してくる。
これで、死ねというのか――
だが、俺は冷静であった。
この場所に訪れた時点で、選択していたのかもしれない。だから、愛する者の為に命を落としてもいい。
俺は柄を握り締めると、一気に振り下ろした。
その瞬間、喉の奥から熱い液体が込み上げてくる。
それは苦く、気持ち悪い。その液体を吐き出し視線を下に向けると、服と靴が真っ赤だった。
「な、何故……」
柚義が、動揺している。目を見開き、大声で質問してくる。俺にとってそれは、愚問だった。
愛しているから。ただ、それだけ。
「嘘だ! 今まで、お前のような人間はいない。どうして……どうしてなんだ。人間は、傲慢だ。鬼畜だ。それなのに……」
声が、震えている。
しかし俺の耳には殆んど届いておらず、徐々に柚義の声が薄れていく。
疼く――刃物を突き立てた箇所が、焼けるように熱く痛い。そして、目の前が真っ白だった。
「康之……康之!」
俺は、柚義の言葉に答えることはできない。
柄から手が、滑り落ちていく。それに続き身体の力が抜け、草の上に前のめりで倒れた。
全身が、寒い。
まるで真冬の中、半袖で過ごしているかのようだ。
俺を中心に血が広がり、それを浴び月光花の蕾が開いていく。
これを手に入れることができれば、彼女を助けることができる。だけど、其処で意識が途切れてしまう。
その先は何も覚えていない。
◇◆◇◆◇◆
頬に何かが触れた。
その感触で俺は目を覚ます。
朦朧とする意識の中、懸命に記憶を手繰っていく。
俺は、反射的に身体を起こす。
その瞬間、記憶が鮮明に蘇っていくが、同時に頭が割れるように痛い。だけど、ハッキリと思い出すことができた。
月光花は――柚義は――どうなったのか。