月光花

「……月光花」

「な、何でそれを――」

「康之の心の中を読むと言ったよ。康之の彼女――成美の為に、月光花を求めている。でも、安心していいよ。この花は、この場所で蕾を開く。そう、康之の周囲に求めている花が」

 少年の言葉は、途中から耳に入ってこなかった。

 俺は花に視線を向けつつ、肩で息をする。

 これが、月光花――激しく興奮する。

 俺は視線を少年に向けると、欲しいという意思を表した。

 しかし少年は、何も言ってこない。

 ただ静かに視線を俺に向け、口許を緩めている。

 何も言ってこない少年に俺は、どうしても〈月光花〉が必要だと訴えかけると、少年の口が開いた。

「人間は、信頼できない。人間は、汚くて醜い。彼女の為に、使用することはしない。売れば、金になる」

 金という単語に、俺は動揺してしまう。

 確かに、金は魅力的といっていい。

 得ることができるのなら欲しいが、月光花をそのようなことに使わない。

 全ては、成美の病を直す為――俺は、必死にそのことを訴えていく。しかし、相手がそれを聞き入れてくれることはない。

「過去、何人もの人間が訪れた。全ては、私利私欲の為に。言葉では、何とでも言える。全員が、そうだった」

「俺は、違う!」

「何が違う? 彼女は、赤の他人。身内ではない。親でも兄弟でも親戚でも……それだというのに、何故? 今までの人間は、その身内を差し出した。身内に命を投げ捨てさせてまで、金に執着した。皆、同じ――人間は、信用できない」

「金に、執着はしていない――」

 少年の名前を叫ぼうとしたが、自己紹介は一方通行なので少年の名前は明かされていない。

 俺は口をつむぐと、少年の顔を見詰めた。こうしていれば、相手が気付いてくれると思ったからだ。

 案の定、予想は的中する。

 それは短い挨拶であったが、少年の名前を知ることはできた。

 柚義(ゆぎ)――それが、少年の名前。

「柚義、俺は本気だ」

「本気? なら、証拠を見たい」

「どうすればいい」

「それなら、死んで。この花は、蕾のままでは効果を得ることはできない。そして蕾を開かせるには、人間の魂を捧げないといけない。月光花――それは、ただの総称。月の光を浴びて、開くわけじゃない。それができないのなら、諦めるしかないよ。本気だというのなら、死ぬことも可能でしょ」
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