バスボムに、愛を込めて
「羽石」
本郷さんが、あたしの名を呼ぶ。
“帰ろう”って言われるんだと思うと切なくて、返事をしたくなくなる。
今日一日で、幸せを知りすぎちゃったから、少しでも終わりを先延ばしにしたいだなんて、子供みたいにわがままな思いで胸がいっぱいだ。
「……帰るから、サンダル履け」
彼は急に元気のなくなったあたしに気づいているはずなのに、名残の欠片もなさそうなそっけない口調で言った。
……仕方ないよね。いつまでもここで膝を抱えてたって、時間は止まってくれないし。
砂を払った足をサンダルに突っ込んで立ち上がり、あたしはため息をついた。
「……疲れたか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。なら手は貸さなくていいな」
え……?
一瞬固まったあたしが言葉の意味を噛み砕いているうちに、本郷さんはコンクリートの階段を上がっていってしまう。