バスボムに、愛を込めて


結局、本郷さんは部屋の前まであたしを送ってくれて、なんだか申し訳なくなったあたしは「中に入ってコーヒーでも」と誘ってみたけれど。


「……遠慮しておく。靴を脱いだらたぶん砂が出てくるし、他人の家に上がれる状態じゃない」

「あたしは気にしませんよ?」


どうせ自分も砂だらけだし、明日も休みだから掃除をする時間はたっぷりある。


「俺が気になるんだよ。とにかく今日は帰る。……で、また次の機会にお邪魔させてもらう」


次の機会……って言ったよね、本郷さん、今。
また、今日みたいにあたしと会ってくれるってこと?

期待のこもった眼差しで本郷さんを見つめると、軽く咳払いをした彼は、あたしから視線をずらし、ゆっくりと話し始めた。


「俺は……潔癖のせいか自分から誰かを好きになることがなかなかできない性質(たち)で。今まで、好意を寄せてくる女の中から好きになれそうな相手を選んでは、適当に付き合ってた」


適当に……という言い方は、ショックだった。そのせいで、本郷さんを本気で好きだった誰かが傷ついたんだと思うと、他人事な気がしない。

でも、本郷さんだって、本当にそうしたかったわけじゃないよね……?


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