HAIJI
ついさっきまで思考回路は停止していたというのに、どうして、こういう時に頭が働くのだろう。
力の入らない拳で、汚れたズボンを握りしめた。
「ササライ、ナナタがどうして外に出たかわかるか?」
「……?」
ヨイは顔を近付けてきて、至近距離で俺を睨み付けた。
薄暗がりの中で、眉間の皺が見てとれた。
「お前が、イモのサラダなら食べるんじゃねーかと思ったんだよ」
──あ…。
いつか、ナナタに言った俺の好物。
好きといえば、確かに好きな食べ物。
だけど、ナナタがわざわざ危険を犯してまで…。
「ロクタ──あいつの兄ちゃんが、もう胃が駄目になってな。色々後悔したんだと思うぜ。
ササライのため──ってことじゃない。ナナタ自身が嫌だったんだ。ササライが兄ちゃんと同じように死ぬのを見るのが」
「……、」
俺のため──というのは傲りだということだろうか。
俺は、そんなナナタを咎める資格も──。
「情けねー顔すんな。ナナタはまだ生きてる」
「……っ、」
「立て。ちゃんと、自分の足で」
促すヨイは、だけど真っ直ぐに俺の目を見る。
言葉通り手は貸さない。
でも、俺の心を叱咤する視線が突き刺さる。
「自分の目で確かめるんだ。じゃないと、お前、絶対に後悔するぜ」
白の部屋だ、と言って、ヨイは立ち上がった。
俺は、ヨイを見上げた。
「あとはお前の意思だ。もう、甘えさせられない」