HAIJI
大和(ヤマト)はスラムの奥で、北部第四エリア保護区域の親──一偉(イチイ)を見つけた。
一偉は子供が作るような小さな山に向かって両手を合わせていた。
山には木の板が建ててあった。
一偉が手を合わせている山以外にもそういった山が数えきれないほどある。
神聖な時間。
時間が止まったように、風も、音も、匂いも、静かになる。
しばらくして、一偉が閉じていた目をゆっくりと開ける。
「久しぶりだね、大和」
「ああ、」
時間が柔らかに動き出し、一偉を取り巻く空気が溶ける。
「南部に居た。北部には急な仕事で呼び出されてね」
「南部からこんな田舎に仕事?」
「しがない雇われだよ。まぁ、そろそろ一偉が寂しがっているんじゃないかって思ってたし」
「ははは。うん、寂しかったよ」
一偉が吹き出す。
「つれないな」
「いや、助かる。なかなか来てくれないから見捨てられたかと思った」
「まさか。一偉がいるから任せてる」
「言うなぁ」
大和も笑った。
「一偉、ハイジを1人連れてきた」
一偉は改めて言う大和の言葉に眉間を寄せる。
「そんな改めて言う話でもないだろ」
「そいつのことでちょっと頼みがあるんだ」
大和は肩を竦めて唇の片方を上げた。
「だろうね」
一偉は観念したように息を吐き出す。
「で?」
「佐々来(ササライ)という名前だ。単刀直入に言うと、一年後、ここの親にしたいと思ってる」